MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

悪夢組とシュルレアリスム 『ぬかるんでから 著 佐藤哲也』

ルネ・マグリットという画家をご存じだろうか。 彼はシュルレアリストの画家として20世紀前半に活躍し、多数の名画を世に遺した。名前は知らずとも、『ピレネーの城』や『ゴルコンダ』『恋人たち』などの絵画を見たことがある人も多いのではと思う。 どうだ…

舞鶴よかと そうだ 博多、行こう 『博多学 著 岩中祥史』

生来、私は旅行と縁遠い人間で、修学旅行を除いてほとんど関東圏から出ない暮らしをしていた。そんな私に地方在住の友人から「こっちに遊びに来ないか?」と連絡があったのは、大学受験が終わり果てしない暇ができた高校3年生の冬のことだった。 そこは関東…

『舞元力一』『ジョー・力一の深夜32時』と、私と、ハガキ職人と。 『明るい夜に出かけて 著 佐藤多佳子』

本記事は佐藤多佳子著『明るい夜に出かけて』のネタバレを一部含んでいます。勝手ながら、ネタバレを不快に感じる方はブラウザバックしていただきますようお願い申し上げます。 ハガキ職人。 それはラジオ等にネタを多く投稿し、かつそのラジオネームやそれ…

黛灰 天才ハッカーはゲームと共に 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム 著 赤野工作』

ゲームが苦手だ。 それはゲームが嫌いだという意味ではなく、単にゲームが下手という意味だ。別に驚くほど下手というわけではないのだが、驚くほど上手くもない。中途半端なのだ。ただ、それはアクションやFPS、音ゲーといった、プレイヤーの操作スキルが求…

ジョー・力一 光って消える、ただそれだけと知りながら 『火花 著 又吉直樹』

本記事は一部又吉直樹著『火花』のネタバレを含んでいます。ネタバレを不快に感じる方は、ブラウザバックしていただきますよう勝手ながらお願い申し上げます。 ジョー・力一というバーチャルYouTuberがいる。 にじさんじに所属するライバーの一人で、職業は…

バーチャルゴリラ ゴリラと暮らす、ゴリラに学ぶ 『ジャングルで学んだこと ゴリラとヒトの父親修行 著 山極寿一』

ゴリラ。霊長目ヒト科ゴリラ属の総称である。 なぜだか人々はその動物に惹かれてしまう。動物園などではライオンやパンダに匹敵する人気者として君臨し、フィクションの世界でも他の動物と比べて活躍することが多いイメージがある。 『ドンキーコング』や『…

エリー・コニファー 職業、使用人。 『日の名残り 著 カズオ・イシグロ』

メイドという存在は日本で広く知られているわけだけれども、現代において実際に給仕をするメイドや執事の姿を見ることは非常に難しい。 秋葉原などに行けば、いくらでも駅前や道路沿いでチラシ配りをするメイドの姿を見かけられるのではないかと思われる方も…

月ノ美兎 おもしろきこともなき世をおもしろく 『すべて今世の私が悪い 著 ひゃくまる』

月ノ美兎といえば、今やインターネットを利用しているオタクの大半はその名前を聞いたことがあるような存在になっている。 美兎氏はにじさんじから1期生としてデビューするや否や、その清楚な見た目から放たれる奇想天外なエピソードや変な方向に豊富なボキ…

麺屋舞元 いざ尋常に、拉麺勝負! 『かいけつゾロリ あついぜ! ラーメンたいけつ 著 原ゆたか』

ラーメンはなぜこれほどまでに人を惹きつけるのか。 20世紀はじめに本格的に日本に渡ってきてからというもの、著しい成長を見せてさまざまな発展を遂げてきた。中華料理から独立して日本食の一つとして数えられるようになったラーメンは、もはや日本人のソウ…

メリッサ・キンレンカ 蝶のように、あるいは蜂のように 『スワロウテイル 著 岩井俊二』

ネットにおける歌ってみたという文化が発達したのは、今から10年以上も前の話だろうか。 当時はニコニコ動画全盛のころで、この文化の興隆によって多くの才能が発掘されていった。今までは実力がありながらオーディションに落ちてしまったり、路上ライブ等の…

セフィラ・スゥに学ぶ占星術 『占星術殺人事件 著 島田荘司』

私はかに座である。 あまり占いに頓着しない方なので、いつぞやのTwitterトレンドに「かに座1位」が上ったことで初めてかに座が占いでは比較的アンラッキーな位置にいることを知り、せっかくの1位なのにモヤモヤした気分になった。 幼少期に見ていたベイブレ…

文野環 吾輩は野良猫である 『完全犯罪に猫は何匹必要か? 著 東川篤也』

猫とは不思議な生き物である。 気まぐれで、神出鬼没で、何を考えているのかわからない。 小さいころはよく住宅街で何匹も野良猫を見つけたものだが、近年はその姿もめっきり減ってしまった。もちろん、さまざまな事情があるのだろうと理解はしているが、や…

ユメノグラフィア ようこそバーチャルの世界へ『クラインの壺 著 岡嶋二人』

VR(バーチャル・リアリティ)技術の発展というものは著しく、VR機器を使って仮想現実世界に没入するということが可能になってきている。 特にその技術はゲーム方面に使われており、野球ゲームであれば選手の視点で球場を見渡したり、ホラーゲームでは主観視…

大空スバル 大空家に見る人と人との繋がり、その暖かみ 『星やどりの声 著 朝井リョウ』

我は行く。さらば、昴よ。 谷村新司『昴』。世代を超えて愛される名曲の一つである。 我々日本人は「すばる」という言葉の響きに惹かれるようで、昴、スバル、SUBARUなど、その言葉の響きをさまざまな形で目にすることが多い。 「昴(すばる)」という言葉は…

俳句も熱いけど短歌だって熱いぞ! 短歌に絡めた作品を紹介したい。

「プレバト!!」の影響もあってか、俳句が熱いという印象がある今日この頃の日本列島。古い時代から続く日本の伝統が世に再び広まっているというのは、もろ手をあげて喜びたい事柄である。 しかしそれならば、短歌ももう少し注目されてほしいものだ。 短歌は…

天開司 立直、一発、青春一色。『砂漠 著 伊坂幸太郎』

最近、麻雀熱が高まっている。 それは私自身の個人的なことだけでなく、世間的なことであるように思う。AbemaTVでは麻雀に特化したチャンネルが設けられ、2018年にMリーグが発足したことも記憶に新しい。また、多くのプロ雀士がYouTubeをはじめ様々な配信サ…

でびでび・でびる でびの奇妙な映画論 『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 著 荒木飛呂彦』

生来、本当に映画というものを見ない。 映画館には一年に一回行くかどうかで、Amazon Primeにも加入しているが、アニメを見ることと音楽を聴くことにしか利用していない。 なぜ私が映画を見ないのかというと、単純に「何を観たらいいのか」というのがよくわ…

夜見れな 一流のマジシャンとは 『青天の霹靂 著 劇団ひとり』『11枚のとらんぷ 著 泡坂妻夫』

ハンドパワー。 私の幼少期は、マジック特番がよくゴールデンタイムで放送されていたけれど、今はあまり見なくなってしまった。マリックはたまに見かけるけど、セロとかどうしてるんだろう。地方の営業とか行ってるのかな。 マジックといえば、にじさんじ所…

あっくん大魔王 吾輩は童貞である。経験はまだ無い。『三四郎 著 夏目漱石』

童貞。 飲み会の席に行けばイジりたおされ、「え~、なんでシないの?w」なんて言葉を女子にぶつけられたりして。それでいて、へへ……と笑うことしかできない。そこでガツンと言い返せないあたりが童貞らしさを加速させているような気もする。う~ん、悲しみ…

舞元力一 ひとくち嘘ニュースが好きなあなたへ 『乱調文学大辞典 著 筒井康隆』

舞元力一というYouTubeで配信されているラジオがある。 にじさんじに所属するバーチャルライバーのジョー・力一氏と舞元啓介氏がパーソナリティを務めているラジオで、先日めでたく30回放送に達した。 30前後のおっさん二人(力一氏は年齢不詳だが)がいわゆ…

エクス・アルビオ そして伝説へ…… 『デルトラ王国探検記 著 エミリー・ロッダ』

いくつになっても「冒険」という響きにはワクワクさせられる。 冒険譚はなぜこんなにも人を惹きつけるのか。古くは神話の時代からイアソンやヘラクレスの冒険譚が作られ、日本でもヤマトタケルやスサノオの冒険譚が作られている。現代でも、大ヒットゲーム『…

自由律大喜利がしたいという話 『カキフライが無いなら来なかった 著 せきしろ、又吉直樹』

自由律俳句ってあるじゃないですか。 たぶん、尾崎放哉の『咳をしても一人』が一番有名だと思うんですが、僕は又吉直樹氏とせきしろ氏の共著『カキフライが無いなら来なかった』が大好きなんですよね。 www.gentosha.co.jp 飲み会の話だろうね、これ。 わか…

でびっち一周忌 追悼特別番組に見た、でびでび・でびるの真骨頂 『メドゥサ、鏡をごらん 著 井上夢人』

鬼才、でびでび・でびる。 noteで映画や小説のレビューをしたり、「悪夢組」というユニットを組んで独特な世界感の動画をアップしたりと、以前からでびる氏はその才の片鱗を見せていた。しかしそれは氷山の一角に過ぎなかった。 2月7日23時。その真骨頂を我…

竜胆尊 かわいい鬼はどこから? 『奇譚蒐集録 ~弔い少女の鎮魂歌~ 著 清水朔』

節分の季節だ。 節分と言えば豆撒きである。幼いころに、鬼に扮した大人に向かって豆を投げて撃退した、という方も多かろうと思う。しかしなぜ豆を投げると鬼を撃退できるのか、ご存じだろうか? マメ。それは「魔目」「魔滅」と表せる。「魔の目」にぶつけ…

卯月コウ 13歳は、永遠だ。&Kimotional『4TEEN 著 石田衣良』『蹴りたい背中 著 綿矢りさ』

人生で一番楽しかったのって、いつだろう。 たぶん、それは中学生時代だ。小学校と比べて学区が広がり、知らなかった地域の友達ができて、知らない街に遊びに行けるようになった。 でも、それくらいなんだよな。高校生時代に比べると、行けるところも少なけ…

佐藤ホームズ S.Hホームズは探偵なのか? 『QED ベイカー街の問題 著 高田崇史』

私の文芸作品の目覚めはいつだったか。 それは元をただせば『かいけつゾロリ』とか『大どろぼうホッツェンプロッツ』なんだけれども、しっかりと小説と呼ばれるものを読んだのは、『探偵ガリレオ』だったように記憶している。 当時小学生だった私は、親がミ…

舞元啓介 スポーツとは、人生だ。『スローカーブを、もう一球 著 山際淳司』

私は横浜DeNAベイスタースのファンだ。 応援し始めたのは中畑政権の時。監督の全身を使った感情表現と、その大味な野球に私は魅了された。以降テレビやネットで試合観戦するのはもちろん、球場に足を運んで観戦することも多くなった。 野球のみならず、私は…

寒い夜、寒い小説、ないものねだり 『きっと君は泣く、ブルーもしくはブルー 著 山本文緒』

生まれてこの方暖房が苦手で、冬はもっぱら厚着をするだけで過ごしている。 北国暮らしではないのだが、夜や朝はやはり冷える。特に指先は相当冷たくなっていることが多い。でも、その冷え切った指先を、自らの体温で温めている瞬間、生きていると感じる。私…

ケリン 爆発オチの持つ魅力とは『檸檬 著 梶井基次郎』

爆発オチ、というのは誰が最初に始めたのだろうか。 数年前までのFNS27時間テレビではビートたけし扮する火薬田ドンが、一通りブラックジョークを読み上げたあと花火を打ち上げようとして失敗、爆発して黒コゲになってしまうネタを披露していた。お笑いの大…

アンジュ・カトリーナ 童貞同士は引かれあう 『童貞 著 夢野久作』

本記事は夢野久作著『童貞』の、多大なネタバレを含んでいます。勝手ながら、ネタバレを不快に感じる方はブラウザバックしていただきますようお願い申し上げます。 「童貞」と聞くと、「野暮ったい見た目の、ダサい服を着た、オドオドしてるやつ」のイメージ…

//上に戻るボタン