MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

魔界の一般人シャレトン 「推さない」がゆえに「推される」ご当地人気 『天体戦士サンレッド 著 くぼたまこと』

誰でも自分の生まれ育った町には大なり小なり愛着というものが存在する。

それは田舎でも都会でも変わらない。東京生まれ東京育ち、悪そうな奴は大体友達……だとしても、ドラマや映画で身近な場所が登場すれば親近感を覚える。私も『シン・ゴジラ』で身近な場所を通過したゴジラを見てワクワクしたものである。

 

地元への愛着、という部分で、ご当地〇〇は人気になりやすい。最近ではご当地映画の『翔んで埼玉』が流行したし、ご当地マスコットのふなっしーくまモンが人気になったのも記憶に新しい。

 

そして、ご当地バーチャルYouTuberといえば、福岡の舞鶴よかと氏が有名だろう。

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チャンネルやTwitterの自己紹介に福岡の文字があり、とにかく「福岡」を推しまくっている、地域密着型Vtuberである。たぶん彼女以外にここまで福岡推しのVtuberはいないのではないだろうか。

 

しかし、福岡を拠点としているバーチャルYouTuberはまだ存在する。

その一人が、魔界の一般人シャレトン氏である。

 

マシュマロ(視聴者からの質問)に答えていく短編動画を主な活動にしており、その軽妙なトークからコアな人気を持つ魔界の一般人だ。

シャレトン氏は、こちらの動画で魔界の福岡在住であることを公表し、福岡から有名になっていきたいと述べている。

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しかし後の動画を見ても、「福岡はいいところ! みんな来てください!」的なアピールはほとんどしていない。たまに視聴者から送られてくるローカルネタを拾い、Twitterで福岡の話題をちょくちょく出すくらいにとどまっている。

 

それにもかかわらず、彼は福岡に住む人から親しみを持たれ、かつ応援をもらう場面が多くみられる。これはいったいどういうことなのだろうか。

 

同じように、地元を「推さない」にも関わらず、地元に住んでいる人間から多大な人気を集めているコンテンツが存在する。

くぼたまこと著『天体戦士サンレッド』だ。 

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おおまかなあらすじは、正義のヒーロー(戦闘スタイルはステゴロ、ヒモ、パチンコが好き)であるサンレッドと、世界征服を目論む悪の組織フロシャイムのヴァンプ将軍(近所づきあいがいい、料理が好き、諦めない姿勢を持つ)が攻防を繰り広げる……という設定のギャグストーリーだ。主に戦闘よりも、怪人たちやサンレッドの日常を切り取った話がほとんどを占めているのが大きな特徴と言えるだろう。

2008年にはアニメ化され、tvkでのみ放映されていたが、ネット配信等もあり全国的な人気も高い。

 

この作品は神奈川県は川崎市高津区溝の口が舞台となっている。そして、溝の口近辺に住んでいる人間で、サンレッドを愛する者は多い。

 

しかし先ほどのシャレトン氏と同じように、この『天体戦士サンレッド』では過剰な「地元推し」は見られない。

舞台が溝の口だというだけなのだ。背景に駅のターミナルが使われていたり、近くの吉野家が出てきたりというくらいで、「ここがすごいよ溝の口」的なアピールはほとんどないのである。

 

ではなぜ、シャレトン氏やサンレッドは地元の人たちに愛されるのだろうか。

 

この二つの共通点は何か、といえば、二つとも「そこ(地元)で、ただ活動をしている」ということである。それは他のご当地活動をしている人、モノにも言えることだと思うけれど、過剰に「この地域のものですよ! すごいんですよ!」とアピールをしていないのが共通点になりうるだろう。

こういったアピールをすると地元の人間は少し引いてしまうというのが私の印象である。例えば、博多明太子や仙台笹かまを地元の人間はあまり食べないと聞いたことがある。これらは明確にご当地グルメに分類され、かつ地域の自治体が外に向けてプッシュしている。しかし地元の人間にすごく愛されているのかといえばそこには疑問符が付く。つまり、これらは「外に向けたご当地」戦略を主とするモノであるのだ。

 

対して、シャレトン氏とサンレッドは、共に「地元に向けたご当地」戦略を主体にしている。

 

一般的なご当地モノは、前述の通り外に向けてアピールし、より多くの人たちに知ってもらい、ファンになってもらう、というのが一般路線であるように思える。ゆるキャラグランプリにしても、「外」に向けてのアピールであろう。

しかし、そもそも地元の人間に対しては、自分たちの土地の良いところも悪いところもひっくるめて全部知っているのだから、わざわざ地元の良いところをアピールをする必要はないのだ。

 

地元の人間に愛されるには、良いところのアピールなんかいらない。より親近感と共感が必要なのだ。そのためには地元をプッシュするより、「地元にいながら頑張っている姿を見せる」方が愛されやすい。これの代表はやはり甲子園球児ではないだろうか。地元の都道府県の代表高校を、それだけで理由なく応援する方も多かろうと思う。

 

そういった部分で、シャレトン氏とサンレッドは「地元の人たちに愛される」ことに成功している。そして、そういった人たちがメインの支持層となり、積極的に応援してくれるようになる。

現に、すでに連載が終了していたサンレッドは昨年、クラウドファンディングで新刊を発売している。ここでは実に目標の10倍もの金額が集まった。

天体戦士サンレッドN 単行本化プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

きっと、中には溝の口出身者が多数いるのではないかと思われる。

 

もちろん、外に向けたアピールも必要ではある。局地的な人気だけでなく、広く人気を集めた方がいいというのは当然だ。

しかし、富士宮焼きそば、横須賀海軍カレーなどのご当地グルメの名前を、流行が落ち着いてからも目にする機会が多いのは、ひとえにそれらが「ご当地」に根差したものであり、その火を絶やさぬよう尽力している人たちがいるからに他ならない。

 

娯楽が多様化した今、よりディープなファン層が求められる中で、こういった「ご当地人気」は重要になってくるだろう。

「推さない」がゆえに「推される」ご当地〇〇、ぜひ今後盛んになってくれることを望む。

 

 

ちなみに、私も溝の口に育てられた人間の一人である。名物女将と鳥団子鍋が有名な居酒屋「たまい」には何度も足を運び、サンレッドのオープニングで登場するスポットは少なくとも三桁回数は目にしている。そして私はサンレッドが好きなのである。彼は私にとって身近な存在で、自分の町にいるヒーローなのだ。

 

サンレッドの他にも、押切蓮介著『ハイスコアガール』、東川篤也著『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』等、溝の口が作中に登場する作品は多々ある。いつか、溝の口発のご当地Vtuberが現れることを期待しよう。

 

そして福岡で活動されているシャレトン氏にもより一層のご活躍を願う。

また、彼は自らの日常を切り取ったギャグ仕立てのWebアニメを作成している。そのシュールな世界観はどこかサンレッドの「ゴドムとソドラ」を髣髴とさせる。併せてお薦めしておこう。

福岡発の真っ黒なピーポー、from me to you……

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