舞元力一というYouTubeで配信されているラジオがある。
にじさんじに所属するバーチャルライバーのジョー・力一氏と舞元啓介氏がパーソナリティを務めているラジオで、先日めでたく30回放送に達した。
30前後のおっさん二人(力一氏は年齢不詳だが)がいわゆる深夜ラジオのテンションでトークを繰り広げるといった内容のものだ。
行われるコーナーも、一部の記念配信を除けば「舞元力一ともしも話(もしも風呂に河童がいたら? などのもしも話を本気で考える)」や「童帝王選手権(童貞特有のエピソードをリスナーから募る)」といった、いい意味でくだらない話題についてつらつらと話していくものが主である。
その中でも、群を抜いてくだらないコーナーといえばひとくち嘘ニュースであろう。
こちらは毎回配信の最後に行われる常設の大喜利コーナーであり、非常に好評を博している。
内容は短文で嘘のニュース(中にはニュースでないようなものもあるが)を発表する、というシンプルなものだ。
シンプルゆえにその短文の持つ破壊力というのは強く、直近の放送であった「織田信長は全身に羽毛が生えていた」は声を出して笑ってしまった。
投稿リスナーの数も多く、毎回1000通以上のお便りがこちらに送られてくることもあって、コーナーとしてのレベルもかなり高いと言える。
さて、そんなコーナーを彷彿とさせる作品といえば、筒井康隆著『乱調文学大辞典』であろう。
こちらは筒井氏が自らの偏見によって書いた文学辞典であり、その内容のほとんどが彼の主観的意見によるものだ。以下、本文中から一部抜粋して紹介しよう。
「あ」アウトサイダー 密造の清涼飲料水。
「と」トロツキー 文学的ごろつき。(ソ連では今でも彼をそう思っている)
「ひ」ヒトラー 著書は「わが闘争」一冊だが、これにも代筆者がいたらしい。
「か」かいころく【回顧録】 惜しまれながら世を去る機会のなかった人が、それに気が付いてあわてて書く本。
このような、前者二つのような言葉遊びから、後者二つのような皮肉の利いたものまで、バラエティに富んだ項がたくさん収録されている。
後者はともかく、「アウトサイダーとは、密造の清涼飲料水のこと」という風に書けばひとくち嘘ニュースに採用されてもおかしくないのではないだろうか。いや、後者だって、「ヒトラー、『我が闘争』も影武者に書かせていた」と書けば結構ハマるかもしれない。
そんなわけで、舞元力一の愛聴者の方であれば、この一冊はかなり楽しめる内容になっているはずだ。
そもそも筒井氏は皮肉のプロフェッショナルで、彼の作品に登場する人物はよほどのことがないかぎり全員皮肉屋であると言っても過言ではない。作品そのものが何かに対するアンチテーゼや皮肉であることもしばしば見受けられる。
特に『大いなる助走』はある文学賞の受賞を逃した男が選考委員を皆殺しにするという内容で、文壇にはこれに激高した方もいるとかいないとか(筒井氏は直木賞候補に三度選ばれたが、いずれも受賞には至らなかった)。
しかしこちらも本人に言わせれば、当てつけのつもりではなく、純粋に面白いものを書こうと思ったから書いたと述べている。筒井氏は自らのような境遇の(直木賞を逃した)人間がこんな話を書いたら面白いだろうと思ってこれを書いたということだろう。前述の通り、まさに筒井氏の皮肉の扱いはプロフェッショナルである。
偏見の方も同じくプロフェッショナルで、彼の作品に登場するキャラクターは皮肉屋であると同時に常になんらかの差別主義者である場合が多く、発言には大きな偏見が含まれていることが多い。
『最後の喫煙者』などは喫煙者に対する非喫煙者の偏見と差別を描き、かつ喫煙者がその偏見に対して持つ偏見というものが書かれている。そのオチもかなり皮肉が効いたものになっているので、興味がある方はこちらも手に取っていだだきたい。
そして、舞元力一のひとくち嘘ニュースであるが、主に「偏見」で面白を誘うネタはは舞元氏が好み(ハッシュドポテトはフライドポテトに勝てないなどと言う戯言からも彼の偏見が見られるだろう)、力一氏は「皮肉」の笑いを好むように感じる(鷹宮リオン、TOEIC95点に興奮、のようなネタを採用するセンスなどからそう思われる)。
そのどちらもカバーできている『乱調文学大辞典』。彼ら及びラジオ舞元力一のファンの皆さまにぜひお勧めしたい一冊である。なお、筒井氏は欠陥大百科という、本書と似た形式をとった百科辞典のパロディも書かれているので、そちらも併せて紹介しておく。
また、以前に投稿した記事でも書いたが、力一氏は筒井康隆氏の作品を愛読しているとのことなので、力一氏の琴線に触れるひとくち嘘ニュースを送りたいという方は本書を参考にしてみるのもいいのではないだろうか(私のお便りはほとんど採用されないので説得力は0)。
ただ、一口嘘ニュースでは、それ以外にもシンプルに「ズレによる面白さ」を利用したネタも多くある。冒頭で紹介した「織田信長〜」のネタなどはそれだ。
そちらが好きな方からすると少しツボから外れる部分があるかもしれない。そちらの「ズレによる面白さ」については桂文珍著『落語的笑いのすすめ』などで詳しく論じられているので、興味がある方はそちらを手に取ってみて欲しい。
業界内でも評価が高いと言われている舞元力一。ぜひ50回、100回、200回とその回数を伸ばしていただきたい。
二人の名前がいずれ乱調にじさんじ辞典に載るとしたならば、説明文はこうである。
まいもと-けいすけ【舞元啓介】 ①薪および着火剤のこと。②冬にアイスを食べることやハッシュドポテトの良さを理解できず、自身をマジョリティだと信じてやまない凡夫。
じょー・りきいち【ジョー・力一】 ペテン師。その名と見た目から『バットマン』に登場するジョーカーを彷彿とさせるが、年末に鶏肉を6キロも買ったのでホアキン・フェニックスでないことが分かる。
まいもとりきいち【舞元力一】 デジモンペンデュラムを食べる異常者の戯言を2時間半も聞かなくてはならぬ宗教行事。主に土日の深夜に行われるので、判断力の低下した人間を洗脳し信者を集めているものと推察される。
以上、悪口ではないのであしからず。