MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

天開司 立直、一発、青春一色。『砂漠 著 伊坂幸太郎』

最近、麻雀熱が高まっている。

それは私自身の個人的なことだけでなく、世間的なことであるように思う。AbemaTVでは麻雀に特化したチャンネルが設けられ、2018年にMリーグが発足したことも記憶に新しい。また、多くのプロ雀士YouTubeをはじめ様々な配信サイトで個人チャンネルを開設するなど、特にインターネット上では麻雀の動きというものが活発化している印象が強い。

私自身も麻雀は趣味の一つであり、天鳳やMJ、雀魂などのネット麻雀にはよく触れてきた。特に最近は雀魂をよく利用し、ある時は歓喜し、ある時は暴言を吐きながら麻雀に熱中している。

 

さて、雀魂といえばバーチャルYouTuberの天開司氏が思い浮かぶ。

彼はBANsというグレーゾーンなVtuber(版権パロディ、下ネタに大きく寄っている等)で構成されたグループの筆頭で、某福本伸行漫画に登場するキャラクターのような面持ちであり、債務者という異色の経歴を持つ。

 

配信内容は飲酒雑談やゲームといったものが多いが、その中でも特に精力的に行っているのが麻雀配信だ。


【#雀魂 公認プレイヤー】天開司の神域麻雀 3/27

上記の動画タイトルにもある通り、雀魂では公認プレイヤーとして定期的に配信を行い、普通にプレイするのみならずコンビ打ち(2人組になり、サインを送りあってどちらかを勝たせる戦法。実際にやってはいけない)対決企画や、特定の役を上がるまで終われない企画など、バラエティに富んだ配信を行っている。

過去には役満を和上ったこともあり、麻雀というゲーム性も相まってさまざまなドラマが生まれることも多い。

 

また、雀魂の公式番組MCに楠栞桜氏と共に選ばれ、殊に麻雀に関しては個人配信にとどまらない活躍を見せてくれている。


天開司と楠栞桜の『てん x くす』一局目

こちらではプロ雀士と対談や対局を行い、しかも自身の牌譜検証をしてもらうなど、麻雀ファンとしてはまったく羨ましい限りの内容となっている。特に牌譜検証は中級者以上の人たちが見れば参考になることも多かろうと思われるので、麻雀に興味がある方はぜひ一度ご覧いただきたい。

 

 

そんなわけで麻雀の世界で大いに活躍されている天開氏であるが、その魅力というのはなにも麻雀だけではない。

他のVtuberの方々とのコラボ配信、特にMonsterZ Mateのコーサカ氏やにじさんじ所属の叶氏、BANsメンバー、その他個人勢など、同年代のVtuberとの配信では、彼の人間的な魅力をよく感じられる。

 

同年代の若い者たちの集まりというのは、なぜだか青春の匂いを感じるものだ。

馬鹿な発言をして、馬鹿なことをやって、それでみんなで笑いあう。それは大学生時代のサークル活動で感じた空気に似ている。合宿だったり、飲み会だったり、馬鹿なことで楽しんでいた空気が彼らの配信の中から感じ取れるのだ。

そして私は大規模コラボ配信などで見られる天開氏らの群像に過去の自分の姿を重ね合わせ、懐かしさを覚えるのである。

 

大学生というのは時間と体力が最も有効に使える期間であり、ゆえに無為にも使いがちなのだが、その無為というものは後になって意味を持つ。あの時、こんなバカなことしてたなあ、こんなバカなことで笑ってたなあ、そう思う時がエモいのだ。

これは卯月コウ氏の記事でも述べたことだが、郷愁と哀愁を同時に感じるとき、大きなエモーショナルが生まれるのである。

 

そんな大学生の青春を描いた小説は数あれど、それと麻雀とが一つになった作品というものは数少ないと思う。今回はそんな一作を紹介しよう。

伊坂幸太郎著『砂漠』である。

 

入学した大学で出会った、東堂、南、西嶋、北村は、同じく新入生の鳥井に誘われて麻雀を打つ。そこから彼らは仲の良いグループとなって、麻雀だけではなく、各々の恋愛や学生生活に干渉しあっていく。

そんな大学生の生活を描いた本作『砂漠』だが、西嶋はたいそうな変わり者だし、南は超能力者だし、なかなかその辺の大学生を描いた作品とは一線を画すものとなっている……かと思いきや、やはり本質は変わらない。通り過ぎていく大学生活という一瞬の時を、まるで悠久のものかのように過ごす彼らの姿は、まさに大学生の姿そのものである。

 

本作は北村の一人称で話が進んでいくのだが、かといって彼が主人公かと言われれば疑問符がつく。一人称小説であるのだが、どこか群像劇めいている。そこがなかなか面白い。

プロットの組み立て方も非常に目を見張るものがあり、伏線の張り方や回収などが緻密で、単に大学生の生活を描いただけの青春小説ではないことがわかる。

また、本作は春、夏、秋、冬、春という四つの季節で章が分けられているのだが、そこにもちょっとした仕掛けが施されているのが、さすが伊坂幸太郎といったところだろうか。

 

正直に言うと、私は伊坂氏の書く文章があまり得意ではなく、積極的には読まない作家の一人だ。それは彼の作品の登場人物の思想や文章のクセに苦手なものが多いからなのだが、本作は特に気になるようなクセもなく、あっさりとした読み味で非常に読みやすいものとなっている。

青春麻雀小説である『砂漠』。ぜひとも天開氏のファンの方には手に取っていただきたい一冊だ。

 

 

最後になるが、天開氏がオリジナル楽曲『HOWL』を発表していることはご存じだろうか?


【オリジナル曲】HOWL【天開司/Vtuber】

 

MVがアップされた際にはTwitterのトレンド入りをするなど、大きな反響を呼んだ『HOWL』。その歌詞は不器用ながらも懸命に生きる天開氏の姿がそっくり描かれたようなものとなっている。

なんだかその歌詞を眺めていると、『砂漠』に登場するような大学生の姿ともどこか重なっては来ないだろうか。

 

愛だの恋だの どんなに画質が良くなっても見えないじゃん
それでもいいさ 自分で探すって まぁ その内 おいおいな

 

どこか投げやりで、どこか必死で。

こんな風に、「おいおい」なんて言っていられるのも若いうちなんだよな。「おいおい」なんていうのは、あまりにも速いスピードで僕らの横を過ぎ去っていってしまうのに。それに気づいているのに、まるで知らない顔をしながら過ごしていく日々を、我々は青春なんて、陳腐な言葉で呼ぶのだろう。

 

立直、一発、青春一色。

 

BANs筆頭天開司。

今後は青い日々ではなく、薔薇色の日々が彼のもとに待っていることを願ってやまない。

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