MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

メリッサ・キンレンカ 蝶のように、あるいは蜂のように 『スワロウテイル 著 岩井俊二』

ネットにおける歌ってみたという文化が発達したのは、今から10年以上も前の話だろうか。

当時はニコニコ動画全盛のころで、この文化の興隆によって多くの才能が発掘されていった。今までは実力がありながらオーディションに落ちてしまったり、路上ライブ等の狭いコミュニティにいるまま埋もれて行ったりしてしまうような人材がこれによって救われたということもあろう。ここから羽ばたいていったアニソンシンガーやバンドボーカルの数も両手では数えきれないほどである。

 

時は流れて、現在でもその文化はまだまだ一線に残っている。特にVtuberの世界ではほとんどの者が歌ってみた動画を投稿しており、そこから人気に火が着く場合も多い。

その中には、歌が上手いことに加えて独特の雰囲気を持つ者も多くいる。そのうちの一人が、にじさんじ所属、メリッサ・キンレンカ氏だ。

 

メリッサ氏は種族、性別、年齢ともに不詳であるという謎多きライバーである。普段はその声を活かして歌配信を行うほか、ゲームや雑談なども行っている。

名前の「メリッサ」はギリシャ語で蜂を意味し、デザインのモチーフにも蜂が使われていることからファンマークに蜂を用いている。しかし、その蜂のイメージとは対照的に優しく落ち着いた声を持っており、デビュー当初からその声は高く評価されていた。歌配信や歌ってみた動画投稿以前には、それらを望む声も非常に多かった印象がある。


笑ってはいけない!感動エピソード選手権

上記の「笑ってはいけない!感動エピソード選手権」では『金色のガッシュ!!』内の名曲「チチをもげ」のカバーを披露し、高クオリティの歌唱でリスナーの涙と笑いを誘った。

このほかにも多数歌ってみた動画を投稿されており、柊キライ氏の楽曲「エバ」のカバーは現在230万再生を超えている。未視聴であるという方は一度再生リストをっ巡ってみてはいかがだろうか。

 

 

さて、蜂の歌い手がいる一方で、蝶の歌い手も存在する。

その歌い手が登場する作品というのが、岩井俊二監督作品『スワロウテイル』だ。メインキャラクターを演じるChara氏がボーカルをつとめる、YEN TOWN BANDが歌う主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」と合わせてご存知の方も多いのではなかろうか。

本作は1996年に映画として公開されたのだが、同年に監督自身が著者をつとめた小説版も発表されている。こちらは映画と少しだけストーリーや登場人物が違っているので、映画を見たという方はその違いを楽しんでみるのもいいだろう。

本作のあらすじを軽く説明しよう。

舞台は架空の歴史をたどった日本。円が世界で一番強い通貨であり、外国人たちは街を円街(イェン・タウン)と呼び、違法に移住して一獲千金を狙った。対して日本人たちは移民たちを忌み、円盗(イェン・タウン)と呼んで蔑んだ。そんな中、ある円盗の女が殺されてしまう。その娘は唯一の肉親を亡くして行き場が無くなってしまうのだが、紆余曲折あり、ある娼婦のもとに引き取られる。娼婦の名はグリコ。美しい歌を歌う娼婦だった。グリコは自身の胸にある蝶のタトゥーから、少女にグリコという名前を与える。やがて彼女たちはさまざまな出来事に巻き込まれ、グリコは歌手としての道を歩み始めていくのだが……。

 

この作品の魅力は、舞台が日本であるのに東アジアの異国めいた雰囲気が感じられるところだろう。移民の話であるから当然と言えば当然なのだが、グリコのエキゾチックな見た目などは、どこかメリッサ氏のデザインから感じられるイメージとも重なる。

また、グリコは特徴的な美しい歌声を持つものの、はじめ衆目に触れる機会に恵まれなかったというのもポイントの一つだろう。メリッサ氏も特徴的な美しい歌声を持ちながら、にじさんじに入る以前は音楽活動が思うようにできていなかったという経緯がある。こういった部分にもグリコとのシンクロニシティを感じざるを得ない。

「私はあいのうたで あなたを探し始める」という主題歌の一説を見ても、歌を中心として活動を行うメリッサ氏の姿を思わせはしないだろうか。

 

それ以外にも登場人物の葛藤の描写など、たくさんの魅力が詰まっている本作。特にメリッサ氏の持つ独特の雰囲気が好きだという方は、映画の方と合わせてぜひ手に取っていただければと思う。

また、主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」が収録されたYEN TOWN BANDのアルバム『MONTAGE』も発売されているので併せてお勧めしておく。

 

 

最後になるが、メリッサ氏は自身が作詞、作曲したオリジナル楽曲「haze」を公開されている。


【オリジナルMV】haze / メリッサ・キンレンカ

その優しいながらもどこか物憂げな音作りは、少しだけ「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」に通ずる部分もあるのではないだろうか。眠れない夜は『スワロウテイル』を見つめながら、メリッサ氏とグリコの歌声を重ね合わせてみるのもまた一興であろう。

なお、本楽曲ほかメリッサ氏はいくつか自身が作詞、作曲を担当したオリジナルの楽曲を公開されている。どれもクオリティの高いものになっているので、併せてお勧めしておこう。


【オリジナルMV】胎生/ メリッサ・キンレンカ

 

メリッサ・キンレンカ。その有り余る才能を持って、いつしかグリコのように、背中の羽を震わせて大きく羽ばたいていってほしいライバーである。

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