MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

エリー・コニファー 職業、使用人。 『日の名残り 著 カズオ・イシグロ』

メイドという存在は日本で広く知られているわけだけれども、現代において実際に給仕をするメイドや執事の姿を見ることは非常に難しい。

秋葉原などに行けば、いくらでも駅前や道路沿いでチラシ配りをするメイドの姿を見かけられるのではないかと思われる方も多いと思う。しかし、彼女たちはいわゆるメイド喫茶の従業員であり、メイド服がその店の制服であるからその格好をしているだけで、実際にメイドとしての技術を持ち合わせているかと言えば疑問符がつく(かといって、それが悪いと言うつもりはない)。彼女たちは本来の(あるいは旧来のといった方がいいかもしれない)家事使用人という意味でのメイドとはまた違った存在であるといえよう。

さまざまな観点から、現代においてメイドという職に従する者が少なくなっていることは理解しているが、一つの文化として、彼女たちが築き上げてきた給仕の作法や技術というものを未来に残して欲しいと個人的には思っている。もちろん、メイド喫茶の中にもそうした作法などを重視したクラシカルなものもあることと思うので、いずれはそういった店舗に足を運んでみたいと考えている。

 

 

バーチャルYoutuberにもメイド服をコスチュームとする者は多くいるが、やはりコスプレ的なものであったり、メイド喫茶の従業員であったりというものがほとんどだ。そんな中で、使用人として現在もお屋敷に仕えている、本来の意味でのメイドとして活動を行なうVtuberが存在する。

にじさんじ所属、エリー・コニファー氏だ。

 

エリー氏は花の妖精であり、自らが生まれた庭園を所有するお屋敷に住み込みで働いてるメイドである。「はわわ」「およよ」などの特徴的な鳴き声(?)が有名なエリー氏だが、配信を見てみると慇懃な喋り方をしており、初対面や目上の相手には必ず「〇〇様」と様付けで呼ぶ部分はいかにもクラシカルなメイドらしい。

彼女はパーラーメイド(主に接客を担当する役職)であり、特に紅茶についてはかなりの蘊蓄を持っている。同じくにじさんじ所属、黒井しば氏の7万人記念配信(オフコラボで、ケーキを7ホール食べるという企画)ではティーセットを持参し、参加者に紅茶をふるまうなどメイドらしい活躍を見せてくれた。


【メイド談義】お屋敷のメイド事情、お話致します( #5月10日はメイドの日 )【#エリーコニファー/#にじさんじ】#雑談 #メイドの日

また、上記の配信ではメイド、執事についての分類や、それぞれが行う仕事の説明などを行ってくれている。一口にメイド、執事といっても多様な種類がある。今までそういった部分を気にしたことがないという方は、こちらの配信を見てみると知見を広めることができるのではないだろうか。

 

さて、そんなエリー氏のようなクラシカルな給仕の姿を描いた作品と言えば、『日の名残り』が思い浮かぶ。

本作はノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の著作で、英国最高の文学賞であるブッカー賞も受賞した。アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされており、そちらを観たという方も多いかと思う。

 

舞台は1956年の英国。主人公であるスティーブンスはダーリントンホールという屋敷に仕える老執事だ。彼は現在の主人であるファラディに勧められ、休暇を得て自動車旅行に出かける。その最たる目的は観光などではなく、かつての同僚ミス・ケントン(現ベン夫人)との再会であった。スティーブンスはミス・ケントンに、あわよくば現在深刻な人手不足に陥っているダーリントンホールへの職場復帰をしてもらいと考えていた。スティーブンスは旅行の中で、かつての主人であるダーリントン卿の下、ミス・ケントンと共に給仕をしていた日々を回想する。

 

本作はいわゆる「信頼できない語り手」という手法がとられている。「信頼できない語り手」というものを簡単に説明すると、地の分がすべて語り手の主観によって書かれているために本来語られるべき部分が隠されていたり、そもそも語り手が事実の思い違いをしていたり、嘘をついていたりするというものだ。

これは本作が大きく評価されている理由の一つであり、さまざまな場で『日の名残り』の「信頼できない語り手」について論ぜられている。読んでみたけど曖昧な部分が多くてよくわからなかった、という方は、各所で発表されている論評や書評を見てみるといいのではないだろうか。

 

また、本作は先述の通りスティーブンスの一人称視点で話が進められていくのだが、その語り口調にはいかにも執事らしい慇懃さがあり、人名が表記される際にもいちいち「〇〇様」といった呼び方をするなど、エリー氏の普段の口調に通ずるものがある。そのため、彼女のファンの方々にとっては読みやすい作品になっているのではないかと思う。

ノーベル文学賞作品だから堅苦しく読みづらい文学なのではないか? と敬遠する人もいるかもしれないが、コミカルな描写も多く、外国文学の中でも読みやすい作品になっていると思うので、ぜひ気軽に手に取っていただきたい一冊である。

 

 

最後になるが、エリー氏は音ゲーマーとしてもかなりの腕前を持っており、Deemoでは高難度と言われている「Entrance」のhardでフルコンボを達成するなど、その魅力はメイドであるというだけにとどまない。


Deemo難曲玄関をフルコンボしてしまうエリー・コニファー【#エリーコニファー/#にじさんじ】

他にもハジケリスト(漫画『ボボボーボ・ボーボボ』のファンの総称)としても有名であり、同じくにじさんじ所属のハジケリスト、轟京子氏とのコラボ配信で亀ラップ(漫画『ボボボーボ・ボーボボ』中で登場したラップ)を披露するなど、さまざまな側面を持っているエリー氏。

Youtube登録者数10万人も目前に控え、3D化もそう遠い未来の話ではない。きっとお披露目配信では、パーラーメイドとして元気にお給仕をする彼女の姿が見られることだろう。

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