MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

『舞元力一』『ジョー・力一の深夜32時』と、私と、ハガキ職人と。 『明るい夜に出かけて 著 佐藤多佳子』

本記事は佐藤多佳子著『明るい夜に出かけて』のネタバレを一部含んでいます。勝手ながら、ネタバレを不快に感じる方はブラウザバックしていただきますようお願い申し上げます。

 

ハガキ職人

それはラジオ等にネタを多く投稿し、かつそのラジオネームやそれに準ずる名前が同ラジオ視聴者に広く知られている常連投稿者のことを指す語である。

まさか自分がその言葉で呼ばれることになろうとは、半年ほど前までは予想もしていなかった。

 

私が「ハガキ職人」という存在を知ったのは比較的最近のことである。

高校に入るまで、私はほとんどラジオを聴いていなかった。当時はほとんどニコニコ動画かアニメを観ていたように思う。そんな折、あるアニメにハマった私は、メインキャラの担当声優だった佐倉綾音氏のファンとなる。そして自然な流れで、彼女と同じく声優の矢作紗友里氏がパーソナリティをつとめるラジオ『矢作・佐倉のちょっとお時間よろしいですか?』、通称「ちょろい」にもまたハマったのだった。

「ちょろい」ではハガキ職人のことをクレイジーリスナーと呼んでおり、そのためか依然としてハガキ職人という単語は私の脳内になかった。ただ、面白い人たちがいるんだなあという程度の認識だった。

そこから『鷲崎健の2h』や『洲崎西』といったアニラジをよく聴くようになり、その辺りで私はようやくラジオでは常連投稿者たちのことを職人と呼んでいることを知る。

彼らのネタのセンスに笑わせてもらいながら、自分もいずれこのようなお便りが書ければなという風に漠然と思っていた。そうは思っていながらも、なかなかネタを送ることができず、「ちょろい」の終了に伴ってラジオ自体から遠ざかってしまった。

 

時は流れて、Vtuber文化というものに出会った私は現在、にじさんじに所属するバーチャルライバー舞元啓介氏と、同じくにじさんじ所属ジョー・力一氏のラジオ『舞元力一』、そして力一氏が個人で行っているラジオ『ジョー・力一の深夜32時』に「モーリョー」というラジオネームでネタの投稿を行っている。

ネタの採用数はそう多くはないが、以前『深夜32時』第5回の中で私がふざけて送った音声が流れ、一部コメントが荒れるということもあったので、リスナーの方々におかれては色々な意味で記憶していただけているのではないかと思う。


【朝ラジオ】ジョー・力一の深夜32時 #05【にじさんじ】

それでもまだ投稿数にしろ採用数にしろ多い方では無いため、ハガキ職人を自称するのはどうかとも思うのだが、そもそも「深夜32時」第1回の時点で力一氏に「ハガキ職人の方」という紹介をしていただいたのでそこはまあお許し願いたい。

 

 

さて、そんな私ことモーリョーのような、ハガキ職人を題材とした文芸作品がある。佐藤多佳子氏の著作、『明るい夜に出かけて』だ。

本作は著者である佐藤氏が愛聴していたラジオ、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』(以下『アルピーANN』と略)のリスナーたちの交流を描いた作品だ。

 

主人公の富山は人間トラブルから大学を休学し、実家を出てコンビニの深夜バイトをして暮らしていた。彼の唯一の楽しみはラジオであった。特に『アルピーANN』には自身もネタを送っており、思い入れの強い番組であった。ある日、富山は夜勤中に『アルピーANN』で優秀なネタを投稿したリスナーに与えられるノベルティの缶バッジをリュックサックに着けている少女、ラジオネーム「虹色ギャランドゥ」こと佐古田に出会う。以来富山は、毎晩のようにコンビニへ『アルピーANN』の話をしにくる佐古田に少しずつ心を開いていき、同僚で歌い手をしている鹿沢、高校の同級生である深沢と交流を深め、自分の過去、将来に向き合っていく。

 

本作は一見青春とは無関係そうなハガキ職人というものをテーマにしているにもかかわらず、非常に完成度の高い青春小説となっている。富山の親や周囲の人間トラブルに対する苦悩には、若い読者の方ならば共感する方も多くおられるのではないだろうか。

 

中でも、特に私の印象に残ったのは、佐古田が『アルピーANN』にネタを送り始めた理由を語るシーンである。

「メール送ったりするの最近だし。自分がネタを作れるとか、読まれるとか思ってなかったし」

なんとなく、それはわかる気がした。アルピーの職人レベルは高いんだけど、それでも、入りやすい感じがあるんだ。初めてでも、練り上げた傑作じゃなくても、くだらなくても、むしろ、くだらない方が……くらいの。

まさに、今までラジオにネタ投稿などしたことのなかった私が『舞元力一』にネタの投稿を始めたときと同じ心境だった。

そうなんだよな。めちゃめちゃ面白いし、絶対に自分じゃ書けないようなネタを送ってる職人もいるけど、別にそこまで肩肘張らなくたっていいんだ。くだらなくたっていいんだ。そんな雰囲気が、『舞元力一』にもあった。だから送りやすかったんだ。

そこから佐古田は続けて、

「中学からラジオ聴いてて、すげーオレ的ヒーローな職人がいて、そいつ、すげーいろんな番組で読まれてたんだ。なんつの? ワザありな? オールマイティな? 頭いい感じ?……」

とも言っている。彼女がハガキ職人として投稿を始めた理由は、ほかのハガキ職人への憧れからでもあった。これも私と同じである。私が『舞元力一』を聞き始めたのは2019年の9月ごろだったと記憶しているが、すでにたくさんの名物ハガキ職人たちがいた。

アールビーアイ。もち。東村ドライ。番犬ワオワオ。頑張れタブチ。ドボウ。平成狸合戦ちんぽこ。好きでも嫌いでもないものは消しゴム。

ほかにもたくさんいるよ。みんな、オレ的ヒーローな職人だ。俺は、彼らに憧れてハガキ職人になりたいなと思ったんだ。こんな面白い人たちと肩を並べられたらいいなって。まだまだ並べてはいないかもしれないけど、自分なりには頑張っているつもりだ。

いつか、俺も誰かの「オレ的ヒーローな職人」になれたらいいな。『深夜32時』の音声はちょっとアレだったかもしれないけど。

 

以上のシーンは私の主観が入りすぎているかもしれないが、ほかにも『明るい夜に出かけて』にはラジオリスナーにとってアツくなれる展開がたくさん盛り込まれている。ぜひとも、今なにかラジオを聴いているという方には読んでいただきたい一冊だ。

 

 

さて、時計を見れば短針は数字の8を指している。もうこんな時間か。外は白んでいるどころではなく、しっかりと明るい。まるで朝みたいだ。YouTubeを開けば聞こえてくる、セミの喧騒と「ジョー・力一の深夜32時」の声。今回のネタは自信があるんだけどな。読んでくれるといいな。

今週もまた、明るい夜に出かけて。

黛灰 天才ハッカーはゲームと共に 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム 著 赤野工作』

ゲームが苦手だ。

それはゲームが嫌いだという意味ではなく、単にゲームが下手という意味だ。別に驚くほど下手というわけではないのだが、驚くほど上手くもない。中途半端なのだ。ただ、それはアクションやFPS音ゲーといった、プレイヤーの操作スキルが求められるゲームに限った話であって、『逆転裁判』シリーズや『レイトン教授』シリーズのようなアドベンチャーゲームなどは好んでプレイしていた。

 

しかし、そんな幼少期、私はあるアドベンチャーゲームで躓いてしまう。DSソフト『プロジェクトハッカー 覚醒』だ。これは主人公が正義のハッカーとなり、事件を解決していくという内容のゲームだ。基本的にはパソコンへのログインパスワードを特定するような推理パートが多いのだが、途中にあるミニゲーム(飛んでくるブロックのようなものをタッチペンで弾く。プレイヤーの反射神経が問われる)があまりにも難しすぎて前に進めなくなってしまったのだ。

何度失敗したところで救済措置などはなく、クリアしなければ前に進めない。こちらとしてはアドベンチャーのつもりでやっていたのに、そことは関係ないところで詰んでしまうのは、なんだか納得がいかない。今さらこのような苦言を呈しても仕方がないことだとは思うが、さすがに不親切ではないかと思ったものである。

 

 

さて、話を変えよう。ハッカー、ゲーム、この二つから連想されるものといえば、にじさんじ所属バーチャルライバー、黛灰氏であろう。

彼はホワイトハッカーとして活動しており、その任務の一環として配信活動をしている。その配信内容はゲームの実況プレイがほとんどを占めていて、有名ゲームタイトルからマイナーなタイトルのものまで幅広くプレイしている。

 

中でも、2020年3月に行われた『GARAGE(ガラージュ)』プレイ配信は記憶に残っている人も多いのではないだろうか。


#1/2【GARAGE/ガラージュ】25万で買った幻の三大奇ゲーをやる。【黛 灰 / にじさんじ】

ガラージュといえばその作中ビジュアルの奇抜さ、雰囲気から「幻の奇ゲー」として有名だ。

なぜ「幻の」と呼ばれるのかといえば、1999年と2004年に合わせて3500枚ほどのROMが出荷されたのみで、現在入手が非常に困難だからである。実況プレイ動画などもほとんど無く、このゲームの存在自体は知っているが、どのような操作性なのか、どのような要素があるのかという細かいところまで深く知っている者は少なかった。

そんな中、黛氏はガラージュを手に入れ、生配信でプレイするという前代未聞のことをしたのだ。ゆえにこの配信は既存の視聴者以外にも注目されるものとなり、現在残っているアーカイブ動画は38万回以上視聴されている。配信自体の評価も高く、前半6時間、後半5時間という長丁場でありながら、完走(最初から最後まで通して見ること)する視聴者も多い。

 

また、この配信にガラージュの監督をつとめた作場知生氏がTwitter上で反応し、黛氏の20万人記念配信ではゲストとして共演するまでに至った。


【20万人記念】スペシャルゲストを呼んで、話してみたかったことを話す。【黛 灰 / にじさんじ】

こちらではガラージュについて、制作側からの貴重なお話を聞くことができるので、興味のある方はぜひ視聴していただきたい。

 

ガラージュ以外にも、古今東西さまざまなゲームをプレイしている黛氏。これからも視聴者をさまざまなゲームに出会わせてくれるはずだ。

 

 

さて、そんな黛氏のようなゲーム好きの方にお勧めしたい一冊といえば、赤野工作著『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』である。

本作はある一人のプレイヤーが、自身のサイトで架空のゲームのレビューをしていくという内容で、小説でありながらブログ記事であるという体を取っている。

舞台は2115年。取り扱われるゲームは主に「低評価ゲーム」と呼ばれるもので(著者の赤野氏が低評価ゲームマニアであり、それが高じて本作を書くに至った)、それらのプレイ記録を主人公は回想していく。

 

本作中にどういったゲームが登場するか軽く紹介しておこう。プレイヤー自身の人格を再現し、自分自身と友達になるゲーム「密友(ミーヨウ)」、ゲーム中毒治療のために作られたFPS「진실게임(チンシルケイム)」、4Dプリンターで作られたフィギュアで戦う「天幻地在バトルマリオネット」……。

どうだろう、説明を聞くとなかなか面白そうだとは思わないだろうか。なのにこれらは低評価ゲームなのだ。なぜ低評価なのか? ということは作中でつぶさに描かれているので、ぜひともご自身の目で確かめていただきたい。

 

本作の面白い部分は、単にゲームのレビューだけで終わらないところだろう。プレイしていた当時の思い出が、主人公の主観バリバリで、相当な熱量を持って語られる。それによって「架空のゲームのレビュー」であるはずなのに、あたかも実在のゲームのレビュー記事のように見えてくる。

また、架空のレビューながら実在するゲームの名前も登場するのが読んでいて楽しい。黛氏のファンかつゲームが好きであるという方には楽しめる作品になっているのではないだろうか。

  

また、『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』はカクヨムで連載されているものなので、そちらで読むのもいいだろう。

 

 

最後になるが、黛灰氏はゲーム配信以外にも、その高い演技力やインターネットのコアなネタへの造詣の深さなどから多大な人気を得ており、2020年7月には3D化を果たしている。


【3Dお披露目】Mayuzumi_XYZ【黛灰/にじさんじ】

こちらでもハッキングをモデルとした音ゲー『Hacker’s Beat』をプレイしており、そのゲーム好きの一面を見ることができるだろう。

個人的なことだが、これを見て私は『プロジェクトハッカー 覚醒』のミニゲームを思い出してしまった。私も彼のゲーム好きの精神に倣い、もう一度プレイしてみようかと思っている。

 

天才ハッカー、黛灰。VtuberVR技術、ゲーム。それぞれの軌跡の交差点に、今彼は立っている。

//上に戻るボタン