黛灰 天才ハッカーはゲームと共に 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム 著 赤野工作』
ゲームが苦手だ。
それはゲームが嫌いだという意味ではなく、単にゲームが下手という意味だ。別に驚くほど下手というわけではないのだが、驚くほど上手くもない。中途半端なのだ。ただ、それはアクションやFPS、音ゲーといった、プレイヤーの操作スキルが求められるゲームに限った話であって、『逆転裁判』シリーズや『レイトン教授』シリーズのようなアドベンチャーゲームなどは好んでプレイしていた。
しかし、そんな幼少期、私はあるアドベンチャーゲームで躓いてしまう。DSソフト『プロジェクトハッカー 覚醒』だ。これは主人公が正義のハッカーとなり、事件を解決していくという内容のゲームだ。基本的にはパソコンへのログインパスワードを特定するような推理パートが多いのだが、途中にあるミニゲーム(飛んでくるブロックのようなものをタッチペンで弾く。プレイヤーの反射神経が問われる)があまりにも難しすぎて前に進めなくなってしまったのだ。
何度失敗したところで救済措置などはなく、クリアしなければ前に進めない。こちらとしてはアドベンチャーのつもりでやっていたのに、そことは関係ないところで詰んでしまうのは、なんだか納得がいかない。今さらこのような苦言を呈しても仕方がないことだとは思うが、さすがに不親切ではないかと思ったものである。
さて、話を変えよう。ハッカー、ゲーム、この二つから連想されるものといえば、にじさんじ所属バーチャルライバー、黛灰氏であろう。
彼はホワイトハッカーとして活動しており、その任務の一環として配信活動をしている。その配信内容はゲームの実況プレイがほとんどを占めていて、有名ゲームタイトルからマイナーなタイトルのものまで幅広くプレイしている。
中でも、2020年3月に行われた『GARAGE(ガラージュ)』プレイ配信は記憶に残っている人も多いのではないだろうか。
#1/2【GARAGE/ガラージュ】25万で買った幻の三大奇ゲーをやる。【黛 灰 / にじさんじ】
ガラージュといえばその作中ビジュアルの奇抜さ、雰囲気から「幻の奇ゲー」として有名だ。
なぜ「幻の」と呼ばれるのかといえば、1999年と2004年に合わせて3500枚ほどのROMが出荷されたのみで、現在入手が非常に困難だからである。実況プレイ動画などもほとんど無く、このゲームの存在自体は知っているが、どのような操作性なのか、どのような要素があるのかという細かいところまで深く知っている者は少なかった。
そんな中、黛氏はガラージュを手に入れ、生配信でプレイするという前代未聞のことをしたのだ。ゆえにこの配信は既存の視聴者以外にも注目されるものとなり、現在残っているアーカイブ動画は38万回以上視聴されている。配信自体の評価も高く、前半6時間、後半5時間という長丁場でありながら、完走(最初から最後まで通して見ること)する視聴者も多い。
また、この配信にガラージュの監督をつとめた作場知生氏がTwitter上で反応し、黛氏の20万人記念配信ではゲストとして共演するまでに至った。
【20万人記念】スペシャルゲストを呼んで、話してみたかったことを話す。【黛 灰 / にじさんじ】
こちらではガラージュについて、制作側からの貴重なお話を聞くことができるので、興味のある方はぜひ視聴していただきたい。
ガラージュ以外にも、古今東西さまざまなゲームをプレイしている黛氏。これからも視聴者をさまざまなゲームに出会わせてくれるはずだ。
さて、そんな黛氏のようなゲーム好きの方にお勧めしたい一冊といえば、赤野工作著『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』である。
本作はある一人のプレイヤーが、自身のサイトで架空のゲームのレビューをしていくという内容で、小説でありながらブログ記事であるという体を取っている。
舞台は2115年。取り扱われるゲームは主に「低評価ゲーム」と呼ばれるもので(著者の赤野氏が低評価ゲームマニアであり、それが高じて本作を書くに至った)、それらのプレイ記録を主人公は回想していく。
本作中にどういったゲームが登場するか軽く紹介しておこう。プレイヤー自身の人格を再現し、自分自身と友達になるゲーム「密友(ミーヨウ)」、ゲーム中毒治療のために作られたFPS「진실게임(チンシルケイム)」、4Dプリンターで作られたフィギュアで戦う「天幻地在バトルマリオネット」……。
どうだろう、説明を聞くとなかなか面白そうだとは思わないだろうか。なのにこれらは低評価ゲームなのだ。なぜ低評価なのか? ということは作中でつぶさに描かれているので、ぜひともご自身の目で確かめていただきたい。
本作の面白い部分は、単にゲームのレビューだけで終わらないところだろう。プレイしていた当時の思い出が、主人公の主観バリバリで、相当な熱量を持って語られる。それによって「架空のゲームのレビュー」であるはずなのに、あたかも実在のゲームのレビュー記事のように見えてくる。
また、架空のレビューながら実在するゲームの名前も登場するのが読んでいて楽しい。黛氏のファンかつゲームが好きであるという方には楽しめる作品になっているのではないだろうか。
また、『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』はカクヨムで連載されているものなので、そちらで読むのもいいだろう。
最後になるが、黛灰氏はゲーム配信以外にも、その高い演技力やインターネットのコアなネタへの造詣の深さなどから多大な人気を得ており、2020年7月には3D化を果たしている。
【3Dお披露目】Mayuzumi_XYZ【黛灰/にじさんじ】
こちらでもハッキングをモデルとした音ゲー『Hacker’s Beat』をプレイしており、そのゲーム好きの一面を見ることができるだろう。
個人的なことだが、これを見て私は『プロジェクトハッカー 覚醒』のミニゲームを思い出してしまった。私も彼のゲーム好きの精神に倣い、もう一度プレイしてみようかと思っている。