エクス・アルビオ そして伝説へ…… 『デルトラ王国探検記 著 エミリー・ロッダ』
いくつになっても「冒険」という響きにはワクワクさせられる。
冒険譚はなぜこんなにも人を惹きつけるのか。古くは神話の時代からイアソンやヘラクレスの冒険譚が作られ、日本でもヤマトタケルやスサノオの冒険譚が作られている。現代でも、大ヒットゲーム『ドラゴンクエスト』、大人気漫画の『ONE PIECE』なんかはド直球の冒険譚だ。
思えば、幼少期など、ちょっと公園の裏にでも行ってみようかな、なんて思った時にはとてもワクワクした。「冒険」と言語化して認識できない年頃からそのように思うのだから、「冒険」には本能的な部分で人を惹きつける何かがあるのだろう。
さて、そんな風にワクワクする冒険を見せてくれるバーチャルYouTuberがいる。
にじさんじ所属エクス・アルビオ氏だ。
髪の色、ゴールド。瞳の色、ブルー。
職業、英雄。
いやいや、なんだそれは。黒崎一護の死神代行もなかなか意味が分からないが、一応職業名としては成り立っている。しかし英雄はどうだ。英雄は特定の職業を指す言葉じゃないだろう。トルネード投法でノーノーをするとか、そういったことをして初めて英雄と呼ばれるんじゃないのか。
なんてグダグダ言っても仕方がない。公式の設定によれば異世界で英雄をしていたということで、こちらの世界とは職業区分も違う可能性もある。
そして、彼はしっかりと、英雄らしい部分を配信で見せてくれている。
彼の英雄たる部分は主にゲーム『マインクラフト』の配信内で見ることができる。
こちらの動画は切り抜きなのだが、その長さを見ていただきたい。なんと1時間超。切り抜きとはいったい何なのか。しかも【前編】とある通り、後編も存在する。
合わせて2時間だ。だいたい映画『ジョーカー』と同じ程度の長さである。長さだけ見てしまうと、うへえ、となる方も多いと思われる。
しかし、通して見てみると、意外にもすらすらとみることができてしまう。それはダレるシーンというものがないからだ。それは切り抜きで編集されているからということもあるが、本人の配信アーカイブを見てもそう感じ取ることができる。
エクス氏の周囲では常に何らかのイベントが起きており、その渦中で氏は様々な面白い行動、言動を取るのだ。そのため無為な時間というものがあまりない。
そういったイベントが起きる原因といえば、本人自身がトラブルメーカーとなることがほとんどだからなのだが、そんな部分がなんだかフィクションの主人公らしくていいとは思いませんか? 僕は思いませんけど。
また、エクス氏は『ONE PIECE』のルフィや『ドラゴンボール』の悟空のように、何かすごいものを見たときなど、「すげ~」と純粋にその感情を発露させる。このあたりなどはいかにも冒険譚の主人公らしく、見ていても嫌味を感じないので爽快である。
上記の切り抜き動画のほかにも、配信アーカイブに彼の冒険の軌跡が残されているので、時間に余裕のある方は切り抜きだけでなく氏のアーカイブを巡ってみてはいかがだろうか。
彼は配信を通じて、上質な冒険譚を我々に届けてくれる。
このようなエピソードから考えてみると、やはり彼は「英雄」という言葉でしか言い表せない。
「英雄」とは広辞苑によると、「文武の才に特に優れた人物。実力が優越し、非凡な事業をなしとげる人」とある。前半はともかく、非凡な事業をなしとげている部分ではにじさんじ内、特にマインクラフトの世界においてエクス氏は群を抜いているであろう。
さて、冒険譚といえば古今東西いろいろな物語があるが、英雄が出てきて、かつエクス氏のような心躍る冒険譚を見せてくれる作品といえば、エミリー・ロッダ著『デルトラ・クエスト』であろう。
20代前半の方ならば、この作品で初めて英雄に出会った方も多いかと思う。
本作はⅠ、Ⅱ、Ⅲ期に分かれており、全15巻が刊行されている。しかし、やはりすでに読まれているという方やアニメで見たという方も多いかと思われるので、今回は本編から外れている一冊を紹介したい。
『デルトラ王国探検記』だ。
こちらは本編中に登場する冒険記である。ドランという冒険家が記したものであり、主人公のリーフ一行は旅の道中にこの『デルトラ王国探検記』によって行くべき道や町を知り、時に窮地を脱することもある。
『デルトラ王国探検記』は上記の本編の作中作を、そのまま現実の世界に持ってきた、というような体裁がとられている。デルトラ王国の地図や、この地域にはどんなモンスターがいるだとか、この地域の人たちはこうだとか、冒険に必要なものはこんなものだとかが挿絵付きで載っている。ただそれだけなのだが、それがいい。
この情報を聞くだけでも、なんだかワクワクするじゃないか。
キモいモンスターだ! 毒の植物だ! かっこいいドラゴンだ!
そこからはもう己の想像力の世界に飛び立てばいい。このモンスターはどうやって倒そうとか、地図を見ながらどのルートで行くのが正解かとか。
また、『デルトラ王国探検記』を片手に本編を読み進めるのもいいだろう。今までになかった発見や、主人公たちはこの時このページを読んでたのか! という感動も味わうことができよう。
それから、私は小説を読み始めたいという人には、こういった児童書を勧めたいと思っている。断じて煽りというわけではない。
『デルトラ・クエスト』に限らず、児童書は全体的に完成度の高いものが多い。特に活字に慣れていない方には、まず活字を読む面白さを伝えることがなにより先決である。読みやすく、かつ面白い小説となると、一般文芸ではやや難しい。その点において、児童書はもっとも適切であるように私は思うのだ。
子育てをしている方、する予定のある方は、ぜひお子様にこの作品群を読ませていただきたい。装丁がキラキラしててかっこいいところもポイントが高い。私も幼少期はこの本の内容もさることながら、装丁に惹かれたものである。
また活字に慣れていないが読書を始めたいという方も、児童書と馬鹿にする前に一度目を通していただきたい。きっとこの冒険譚ならば、ページをめくる楽しさを教えてくれるはずだ。
最後になるが、現在エクス氏は『パズル&ドラゴンズ』の魔法石80個ガチャに毎日挑戦しているのでそちらを応援してあげよう。英雄がギャンブルなんて! と憤られる方もいると思うが、ドラクエではカジノ漬けになっている英雄が全国に数十万人以上いるので許してやってほしい。
それに、そろそろ80個当たらないと可哀想だと思いませんか? 僕は思いませんけど。
おお 神よ!
この者に あなたさまの
ご加護の あらんことを!