MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

御伽原江良と村上春樹について、私が文学教育に思うことについて 『夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について 著 村上春樹』

御伽原江良、通称ギバラは、今やネットミームの一つともいえる人気を持つ、にじさんじ所属バーチャルライバーだ。

「我にじさんじぞ?」や「ゴミカスーーーーっ!!○ねェぇぇええええ!!!!」などの名言(?)を発信し、2019年のネット流行語100では82位にランクインした。また年間大賞を「にじさんじ」が受賞した際には、代表者として壇上に上がり挨拶を述べている。


「大学4年生で手芸サークルに所属している。料理、掃除なんでもこなす家庭的な女性。いつか素敵な王子様が自分を迎えに来てくれると夢を見ている」というのが公式的な設定なのだが、女性という部分以外はすべて嘘である(素敵な王子様~のくだりは諸説あり)。

彼女についての正しい情報としては、口が悪い、下ネタが好き、ロリータ・コンプレックス、引きこもりと、あまり我が子にこう育って欲しくないような要素がてんこ盛りだ(失礼)。

 

そんな御伽原氏だが、なんと村上春樹の小説が好きだと言うではないか(以下の動画46:13~) 。

こちらで述べられている村上春樹の作品は『夜のくもざる』に収録されている、『夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について』だ。

www.heibonsha.co.jp

この短編集には、3~4ページ程度の、非常に短い短編が多数収録されている。多くの作品がコメディ調であるのに対して、『夜中の汽笛~』は非常にロマンチシズムにあふれた作品に仕上がっている。

 

配信内で御伽原氏は、「小説が好き、というよりは村上春樹が好き」ということを言っている。

それは小説のもっとも正しい楽しみ方の一つだろう。何も小説を読むことは偉いことでもなんでもない。ただの趣味の一つなのだ。私も「映画が好き!」というわけではないけれど、『レオン』や『ボヘミアン・ラプソディ』など、好きな映画作品は多々ある。

 

ただ私はその映画を、面白そうだから見てみるか、と能動的に見に行ったのに対して、彼女が村上春樹に出会ったのは偶然のなのだ。彼女はたまたま、教科書の中で村上春樹を見つけるのだ。

 

 

近年、国語の教科書から文学作品を大きく減らそう、という論調がどうやら優勢であるらしいが、私はその意見には反対である。

 

しかし、文学を現代文の授業で掘り下げて教えるべきであるとは思わない。

 

確かに教科書に載っている文学作品には素敵なものがたくさんある。『檸檬』や、『やまなし』などは、その世界観が大好きだという人もいるだろう。

だが、このような作品を無理やり読ませて、将来的にどこで活かせるというのか。

道徳教育だとしても、それは道徳でさせればいいんだし、読解力をつけさせたいんだとしても、それなら評論でやった方が効果があろう。

 

若者の活字離れ、文学離れを抑制するためにこれら文学を教えているのだとしても、「クラムボンが笑った理由」とか、「不吉な塊の正体」とかをテストでなんか出してほしくない。それは読者の中で様々な想像が膨らむからこそ魅力になるのであって、子供たちが彼らなりに考えて出した答えに正否をつけるなど、文学の楽しみ方を正面から否定するようなことをしては、ますます文学嫌いになってしまう。

そもそも、ナントカ賞の選考でも「この作品はこうだ!」「いやこういう読み方が正しい!」みたいな論争が起こってるんだから、答えを用意するなんて馬鹿馬鹿しいというほかない。

 

あと、「この人はなぜこう思ったのか」みたいな設問に対して、「わからない」って思ったら「わからない」でいいと思うのだ。誰が『ドグラ・マグラ』をきちんと理解して最後まで読めたというのか。そもそも理解できたとしても、それはその人自身の解釈でしかない。

そういえば中学時代の国語の授業で、「わからない」という回答に「なんでもいいからお前が思ったことを言え!」ってブチ切れた教育実習生がいたのを思い出す。読んでも「わからない」としか思わなかったんだから、満点の解答だろう。彼は先生になれたんだろうか。だとしたら生徒がかわいそうだなあ。

 

だから、授業で無理に文学を「教える」必要はない。低学年のうちは日本語になれるために音読くらいはさせた方がいいかもしれないが、それ以降はもう無理やり読ませる必要はないだろう。あとは作中に出てくる漢字をテストに出すとか、文法を学ぶ際に例文を文学作品から引用するくらいでいい。

 

ただ、それでも、私は文学作品を教科書から減らしてほしいとは思わない。

 

載せておくだけ載せておけばいいのだ。教科書でなくても、便覧とかでいい。とにかく、授業中は暇な時間が多い(教育者の方には失礼かもしれないが)。その時間つぶしにでも読んでもらって、好きな作品を見つけてもらうのだ。

無理に押し付けても読まない人は読まない。読みたい人だけが読めばいいのだ。現に、御伽原江良氏は誰に強制されたわけでもなく、教科書に載っていた村上春樹と出会うことができているのだから。

 

それから、載せる作品は星新一オー・ヘンリー宮沢賢治村上春樹みたいな、内容が子供でも楽しめるものか、雰囲気が独特な作家のものがいい。とにかく、「文学って面白い」と思わせることがもっとも重要なのだ。

 

私は将来的に「文学」が「美術」「音楽」「書道」と同じようなカテゴリになればうれしいと思っている。楽しみたい人が楽しみ、より深く知識を手に入れることのできる芸術科目。「文学」は「文芸」だ。芸術科目であってもなんら不思議ではない。そこから画家や音楽家書道家と同じように、文筆家を目指す若者が出てくれば、なお素敵なことじゃないか。

 

 

最後に、私は村上春樹氏が苦手であることをここに告白する。なんだか彼のインテリジェンスな雰囲気が文章からにじみ出てくるような気がして、どうにも好きになれない。しかし彼の文芸の表現力の豊かさ、その独創的な世界観は、大きな評価を得るに値するものだと感じる。

いつか彼がノーベル文学賞をとれることを期待している。

 

もし彼がまたノーベル賞を逃すようなことがあれば、大声で叫んでやろう。

www.youtube.com

 

 

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