MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

ニュイ・ソシエール 競馬はもう「おっさん」のものじゃない 『焦茶色のパステル 岡嶋二人』

競馬を見るのは好きだ。ウイニングポストも好きだ。特別に詳しいわけではないのだけど、人馬の絆と言おうか、人間と他種族が一緒になって頑張っている姿に胸を打たれる瞬間が多々ある。でも賭けるのも好きだ。お金も感動と同じくらい大事だからこれはしょうがない。

 

天皇賞・秋は現地観戦し、アーモンドアイの走りに圧倒された。お金は帰ってこなかったけど、いいものを見せてもらえた。

失ったお金は直後の西湖特別で、ペプチドバンブーのおかげでトントンになって帰ってきた。しかし、別に真剣に予想したわけじゃなく、ただ彼の名前の響きがよかったから買ってみただけなのだ。私は半濁音が多い馬が好きで(ポポカテペトルとか)、競馬場で好みの名前の馬がいれば、人気や評価など関係なくつい買ってしまう。幼少期にもたまたまニュースで見たオレハマッテルゼの名前を妙に気に入っていた。

 

そんなライト競馬ファンの人間にも、競馬を一緒に楽しめるライバーがいる。ニュイ・ソシエール氏だ。

 

彼女は異界から来た魔女なのだが、なぜか日本競馬に堪能で、競馬の同時視聴配信や、ウイニングポストの実況プレイ配信などを行っている。

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ウイニングポストでは、自らの胸の大きさから牧場に「バクニューファーム」と名付け、馬名にも「チチヲモモーヌ(メジロラモーヌ)」や「タワワユラス(タマモクロス)」などのもじりを用いている。

ただ、ふざけているのはネーミングセンスだけであり、馬に向き合う姿勢は真剣そのもので、タワワユラスが有馬記念オグリキャップイナリワンに競り勝った際にはその目に涙を見せている。

 

彼女は他にも格闘技の知識にも明るいなど「おっさんが好きな趣味」を持っていることもあって、中には彼女に対して「同族」としての親しみを持っている男性視聴者の方も多いかと思われる。

しかし、そのような、競馬は「おっさんが好きな趣味」という考えはもはや旧態依然的と言ってもいいだろう。 

 

未だに競馬は「男性の趣味」というイメージが先行している場合が多い。

だが、88年のオグリキャップ登場時には、「オグリギャル」と呼ばれる女性ファンがすでに競馬場に押し寄せている。現在では川田騎手などがアイドル的な人気を博し、騎手を応援しに競馬場へ足を運ぶ女性も多くみられる。また、ファミリー層の姿も少なくない。

割合でみれば、確かに男性の方がより競馬に興味を持っているのかもしれないが、それは野球観戦やサッカー観戦とそう変わらなくなってきている。

 

思えば、近年の最強馬といえばウオッカやアーモンドアイといった牝馬で、凱旋門賞を二連覇し、BCターフを同時に制したエネイブルも牝馬である。そして騎手界にも藤田菜七子というニュースターが登場した。女が男に肩を並べ、時に追い抜いていく時代がそこまで来ている。

 

もう競馬は「男のもの」から脱却した。

 

 

そんな風に、競馬が「みんな」の趣味になった今、お薦めしたい本がある。

岡嶋二人著『焦茶色のパステル』だ。

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この作品は競馬を絡めたミステリなのだが、「競馬なんて全くわからないなあ」という方にも読んでいただきたい。なにしろ、この作品の執筆を担当していた井上泉氏はほとんど競馬を知らない人物だったのである(岡嶋二人は共同ペンネームだったため。詳しくは後述)。

また、本作の主人公は競馬に興味のない女性で、彼女がわからないことがあれば作中でほかの人が必要な知識をいちいち教えてくれる。すなわち、その部分を読めば競馬や馬の知識について学ぶことができるから、競馬がわからないからストーリーがわからなくなるなんてことはないのである。

 

あらすじを軽く説明すると、牧場で牧場長と大友隆一が殺され、同時に馬の親子であるモンパレットとパステルも殺される。パステルは四冠の名馬ダイニリュウホウの直仔で、四千万円の値がつけられている期待された幼駒であった。隆一の妻、香苗は夫の死の真相を突き止めるべく動く。やがて、殺人事件の裏にある尋常ならざる事情が見えてくる。

 

私はいわゆる本格ミステリが苦手なのだが、この作品は非常に面白かった。それは殺人の動機に説得力が感じられないことが多いからだけれど、この作品はそういった部分もしっかりと練られて作られている。私が今まで読んだ本格ミステリの中でも上位に入る作品と言って間違いない。

 

岡嶋先生は、ミステリの大家として有名で、この『焦茶色のパステル』で江戸川乱歩賞を受賞し、同作でデビューしている。

岡嶋二人」は井上泉氏と徳山淳一氏の共同ペンネームだ。このコンビは1989年に解消されているのだが、井上泉氏は井上夢人という名義に変更し、その後多くの作品を発表されている。私はそちらの名義の作品も好みなので、いずれ紹介したいと思う。

解散についての詳しいいきさつは『おかしな二人』というエッセイで詳しく書かれているので、気になる方はチェックしていただきたい。

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また、ニュイ氏は魔女ということなので(配信で魔女要素を感じることは少ないけど)、井上夢人名義で発表されている『魔法使いの弟子たち』も同時にお薦めしたい。

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 最後に、ニュイ氏が本物の「おっさん」舞元啓介氏とK-1について熱く語り合う配信も併せて紹介しておく。なんだやっぱりおっさんじゃないか、なんてことは言ってはいけない


【初コラボ】K-1ベストバウトトーク!【にじさんじ】

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