MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

大空スバル 大空家に見る人と人との繋がり、その暖かみ 『星やどりの声 著 朝井リョウ』

我は行く。さらば、昴よ。

谷村新司『昴』。世代を超えて愛される名曲の一つである。

 

我々日本人は「すばる」という言葉の響きに惹かれるようで、昴、スバル、SUBARUなど、その言葉の響きをさまざまな形で目にすることが多い。

「昴(すばる)」という言葉は「プレアデス星団」、おうし座の星団のことを指す。その語源は「統ばる」という古語であり、「集まって一つになる」という意味がある。

 

そんな「すばる」の名を背負ったバーチャルYouTuberが存在する。

ホロライブ所属、大空スバル氏だ。

 

ホロライブの二期生として2018年9月から活動を開始し、黎明期からホロライブを支えてきた一人である。 主に雑談やゲーム配信を中心に活動を行っており、にじさんじ所属の舞元啓介氏とは「地獄企画」と呼ばれる、見ている方もやっている方も辛くなるような内容の配信(激辛ペヤング早食い対決、ボイス朗読等)を行っている。


ペヤング激辛MAXEND早食い対決! 舞元啓介vs大空スバル

当初は珍しいおっさんVtuberであった舞元氏とのコラボ配信はにわかに注目を集め、今では彼女の人気を支える一大コンテンツに成長した。

 

さて、スバル氏の最も評価されているところはといえば、常に全力で、努力を惜しまないところだろう。

前述のような地獄企画と呼ばれるような精神がすり減る配信でも、常に自分が出せる力の最大限を発揮してくれている。地獄企画でもそうなのだから、ほかの配信では言うまでもない。

 

そんな人柄に引かれるのであろうか、スバル氏のもとにはたくさんの人々が集まってくる。リスナーはもちろん、ホロライブメンバー、舞元氏、自身のデザインを担当したしぐれうい氏……。

特に後者2名とは「大空家」といううユニットを組んでおり、親交も深い。

 

しかし、この「大空家」、もしかしたら成立していなかったかもしれないのだ。

 

舞元氏はデビューから一ヶ月ほどで引退を考えていたという。それをとどまらせたのが、前述のペヤング早食い対決企画であった。これがきっかけで舞元氏は自身のVtuberとしての目標をクリアにすることができるようになり、引退を思い止まったのである。ひいては、当時あまりなかった事務所間でのコラボの先駆けにもなり、舞元氏はスバル氏に感謝の念を述べている。

うい氏もまた、もともとは普通のイラストレーターであったのだが、スバル氏に配信に誘われたことがきっかけでVtuberとしての活動を始める。以来スバル氏とのコラボ配信のみならず、様々な場面で活躍するようになった。もともと喋ることが好きだったといううい氏は、Vtuberという新しい世界に自分をつれてきてくれたスバル氏に常々感謝の言葉を述べている。

また、スバル氏も同様に、2人に対して感謝の言葉を述べている。自身が今の人気を得ることができたのも、デザインをしてくれたうい氏、デビュー直後にコラボをしてくれた舞元氏がいたからなのだ。

 

それぞれがそれぞれに関わり合っているからこそ、個人として存在することができている。しかし、その関わり自体もまた、個人が存在しなければ生まれることもない。

その構造は、まさしく家族と言えるのではないか。「大空家」というのは単なる家族ごっこではなく、実際に家族として機能しているのではないだろうか。

その繋がりを見る度に、私は暖かみを感じずにはいられないのだ。

 

輝ける星のもとには、同じく輝ける星が集まってくるという。しかし、スバル氏の場合、それは少し違うのかもしれない。スバル氏の輝きがほかの星たちに光を与え、その光を受けてもっと強く輝いていく……。

まさしく、「スバル」の名の通りではないか。集まって、ひとつになる。ひとつひとつの星の輝きは小さなものにすぎない。しかし、それらが集まることによってより強いひとつの光へと変わっていくのだ。

 

そのように、「集まって、ひとつになる」家族の絆を描いた作品といえば、朝井リョウ著『星やどりの声』であろう。

 

本作は三男三女のきょうだいとその母親の、今は亡き父の遺した喫茶店での暮らしを描いた物語だ。オムニバス形式であり、三男三女、それぞれの一人称で話が進められる。

全体としてのストーリーに共通していることは、「絆」である。きょうだい達は、それぞれ個人的な悩みと家族全体の一員としての悩みを抱えながら日々を過ごしている。そして彼らは時にほかの家族たちや町の人々、クラスメートの力を借りながら前に進んでいく。

 

本作のストーリーを見てみると、どこかスバル氏の姿とも重ならないだろうか。黎明期にはいろいろな意味で伸び悩みやうまくいかないこともあっただろう。それを前述のように、大空家をはじめ、さまざまな仲間たちと共に乗り越えてきたというバックボーンからは、やはり年齢や性別を超えた絆というものが強く感じられる。

 

私は朝井リョウ氏のことを、現代の若手日本人作家の中では最高峰の書き手の一人であると考えている。本作や『桐島、部活やめるってよ』『チア男子!!』といった青春小説から、『何者』のようなダークなもの、『世にも奇妙な君物語』のようなコミカルなものまで、様々なジャンルの作品を発表しながら、そのすべてがハイクオリティなものになっている。

本作からとは言わず、気になるテーマの作品があれば、ぜひとも彼の著作を手に取ってみていただきたい。

 

 

最後になるが、しぐれうい氏がデザインを担当した舞元氏とスバル氏のコラボグッズが5月3日まで発売中である。

他事務所に所属するタレント同士でのコラボグッズの発売は異例のものであり、この難しいグッズ化の実現に至るまでの経緯を知っていると、より感慨深いものがあるではないか。彼らの輝きが、多くの障壁をさえ乗り越えてしまったのだ。

 

大空スバル。

名もなき星だったはずの一人の少女は今、自身を取り巻くさまざまな星々と共に、インターネットという大空で燦然とその身を輝かせている。きっとこれからも、鮮やかにその身を輝かせてくれるだろう。

 

ああ、いつの日か、誰かがこの道を。

君は行く。大空スバルよ。

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