MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

バーチャルゴリラ ゴリラと暮らす、ゴリラに学ぶ 『ジャングルで学んだこと ゴリラとヒトの父親修行 著 山極寿一』

ゴリラ。霊長目ヒト科ゴリラ属の総称である。

 

なぜだか人々はその動物に惹かれてしまう。動物園などではライオンやパンダに匹敵する人気者として君臨し、フィクションの世界でも他の動物と比べて活躍することが多いイメージがある。

ドンキーコング』や『キングコング』では主役として登場し、『魁!!クロマティ高校』ではフレディと並び、出てくるだけで面白いという反則級のキャラクターとして人気を馳せた。『SLAM DUNK』でも赤木剛憲という世を忍ぶ仮の姿で登場し、影の主人公として大活躍した。

 

そのように人気者であるゴリラは、当然のごとくバーチャル世界にも存在している。

その名はバーチャルゴリラ。ルワンダからやってきたゴリラである。

 

彼について、まず目を引くのはやはりその見た目であろう。なんせゴリラなのだ。誇張やデフォルメのない、純粋なゴリラ。デビュー当時、Vtuberのほとんどが人型だった中で、極めて異質な存在であったといえよう(現在でも人型でない者は少なく、異質である)。

その見た目から放たれるバリトンボイスとやけに首だけ可動範囲の広いLive2Dが話題になり、現在ではYoutubeの登録者数は6万人を超える人気となっている。普段はFPS等のゲームを中心に、ほかVtuberとのコラボ配信や、その声を活かして歌ってみた動画等の活動を行っている。


バーチャルゴリラ『ゴリガタ』MV

上の『ゴリガタ』はVtuberユニット、ヒメヒナの『ヒトガタ』という楽曲(TVアニメ『バーチャルさんはみている』のED曲)の替え歌で、本人がアップした動画の中でも屈指の人気を得ているものだ。

3Dモデルのゴリラ氏がラップを口ずさみながら踊っている姿は、それだけでもエンターテイメントとして面白い。歌詞もまた「ゴリラのゴリ押し」というようなものになっており、非常に完成度が高い動画と言えるだろう。ゴリラ氏に馴染みがないという方はまずこちらの動画から見てみるといいかもしれない。

 

 

さて、ゴリラといえば現京都大学総長、山極寿一氏の名前が思い浮かぶ。山極氏は人類学者、霊長類学者であり、ゴリラ研究の第一人者としてよく知られているかと思う。京都大学総長に就任する際には、優秀な研究者であるがゆえに研究職から退いて欲しくないという理由で学生から反対の声が上がったほどの人物だ。

山極氏はゴリラやサルについて多数の著書を発表されれているが、その中でも今回紹介したいのは『ジャングルで学んだこと ゴリラとヒトの父親修行』である。

こちらは山極氏がゴリラの生態調査のために滞在した、アフリカ、コンゴでの出来事を綴ったエッセイである。タイトルの通り、ジャングルでの生活、ゴリラの研究、現地人たちとの交流の中で、当時すでに2児の父親であった山極氏が「父親」として、そしてゴリラ研究者として様々なことを学び取っていく過程が描かれている。

こちらではゴリラの生態についてはもちろん、発展途上であるアフリカの村の様子、文化、食生活なども鮮明に書かれているので、非常に学ぶところの多い本であろう。

 

特に私が面白いと感じたのはやはりオスゴリラの父性という部分である。彼らはその体毛からシルバーバックと呼ばれている。その名前自体は比較的有名だと思うが、実際に彼らはどういったことをしているのか? というと、なかなか知らない方も多いのではなかろうか。

ここで私がそれについて説明してしまうのは簡単なことなのだが、それはやめておこうと思う。気になるという方は本書を手に取り、そのゴリラの父性について調べてみることをお勧めする。きっとその過程で、それ以外にもさまざまな知見を得ることができるはずだ。

『ジャングルで学んだこと ゴリラとヒトの父親修行』は現在絶版となっているが、Kindleで購入が可能である。また、図書館に置かれていることもあるので、気になる方はぜひ調べてみていただきたい。山極氏はこの他にも多数のゴリラやサルについての著書を発表されているので、興味のあるテーマの著書があれば手に取ってみると良いのではないだろうか。

 

また、本書内に登場するゴリラの中に、ニンジャと名付けられた個体がいる。バーチャルゴリラ氏と仲のいいVtuberにも乾伸一郎氏という忍者のVtuberがおり、これは偶然の一致に違いないのだが、なんとなく運命的なものを覚えてしまう。彼らのファンであるという方は少なからずゴリラに興味のある方だと思われるので、ぜひともこのような本を読んでみてほしい。

 

 

最後になるが、バーチャルゴリラ氏はVEEMusicというバーチャルミュージックレーベルのバーチャル社長を務めている。先述のバーチャル忍者である乾伸一郎氏ほか多数のVtuberが所属しており、音楽を中心として様々な活動を行っている。その規模からしても、今後の活動にも期待のかかるレーベルだ。

また、ゴリラ氏は「V呑み」というVtuberたちが飲み会をするというコンセプトの配信にもよく参加しているほか、配信や企画などでさまざまなVtuberたちとコラボすることが多く、そこからゴリラ氏の交流の広さというものがうかがえる。


【#V呑み】おっさんV居酒屋(バーチャルなら集まれる)【にじさんじ/BANs/MZM/VEEMusic】

こういったゴリラと人間の共存も、バーチャル世界であるからこそできることだと思う方もおられるだろう。しかし、これは現実世界でも行われていなければならないことではないだろうか。

暗い話になるが、つい先日ウガンダでゴリラが殺害されるという事件*1が起こってしまった。かつてはゴリラが人間によって殺害されてしまうことは少なくなかったが(『ジャングルで学んだこと~』内にもその記述がみられる)、最近ではほとんどそのような事例がなくなってきたという中で起こった事件である。このようなことが起きてしまった現実を見るに、まだまだ人間と自然の共生というのは難しいのかもしれない。

そう考えると、バーチャル世界はユートピアだ。ゴリラがいて、人間がいて、犬や魔王や悪魔がいて、それらが共存している。バーチャル世界でできていることが、現実世界でできないというのは、なんとも寂しいことではないか。

 

いつかはこのバーチャルゴリラ氏らを取り巻いているバーチャル空間のように、現実でもゴリラほかさまざまな生き物たちと人間が共存できる未来を願いたい。

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