MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

文野環 吾輩は野良猫である 『完全犯罪に猫は何匹必要か? 著 東川篤也』

猫とは不思議な生き物である。

気まぐれで、神出鬼没で、何を考えているのかわからない。

 

さいころはよく住宅街で何匹も野良猫を見つけたものだが、近年はその姿もめっきり減ってしまった。もちろん、さまざまな事情があるのだろうと理解はしているが、やはり生活の中にあった当たり前の景色が消えていくのは何か寂しさも感じる。

さて、そんな野良猫はどこに行ってしまったのだろうか。ある猫は拾われ、ある猫は保健所に連れていかれ、ある猫は野良のまま天命をまっとうした。そして、ある猫はスマートフォンを拾い、バーチャルYouTuberになった。

 

その名はズバリ野良猫。

前述の経緯でにじさんじから配信デビュー果たした彼女は、「文野環」という視聴者のアンケートによって決められた名前で活動している。

 

そんな環氏だが、その配信内容はまさに猫のごとき奔放なものであり、視聴者を大いに困惑させている。先日の「にじさんじ最強雀士決定戦」という麻雀大会でも予測不能の動きを見せ、オーラスではトップと2着目が立直をかけあっているところで自身の最下位を確定させる和了をするという自由さを見せつけた(本人は上がれば勝ち、と思っていたようだ)。


麻雀で優勝していくことにするわね【にじさんじ/文野環様】

当該配信を見れば、一目で彼女の特異性というものが理解できるだろう。やる気のないサムネイル。対局開始時に画面表示を忘れる。表示をしたと思ったらゲーム画面は見切れている。対局終了後は画面が暗転したまま。対局者と喋っている内容もかみ合っているんだかいないんだか。他の配信者であればどれか一つでも大きなミスとして反省するようなものであるが、環氏は平然と、なんの悪びれもなくそれらの行為をやってのけるのだ。

他にも、ある時は火災報知機を鳴らし、ある時は猫のゲボを取り除こうとしてマイクを掃除機で吸い込んでしまい、そのまま掃除機の中のマイクに向かって話し続け、ある時は1円玉を溶かしてアルミホイルを作ろうとし、ある時は少年革命家とコラボをする……など、挙げていけばその奔放さにはキリがない。そのマイペースさたるや、まさしく野良猫と言えるだろう。

 

 

そんな奔放な猫が登場する作品は世の中にはたくさんあるわけだけれども、とりわけそれが際立っている作品といえば『完全犯罪に猫は何匹必要か?』だろう。

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334743802

本作は『謎解きはディナーの後で』で有名な東川篤哉氏の著作で、探偵の鵜飼杜夫を主人公とするミステリー、『烏賊川市シリーズ』の第三弾として刊行された。知名度は『謎解き~』に比べると低いかもしれないが、玉木宏主演でドラマ化もされている著者の代表シリーズの一つである。

 

あらすじを軽く説明しよう。

探偵鵜飼は寿司チェーンの社長・豪徳寺豊蔵に猫探しを依頼される。しかし豊蔵は直後に自宅のビニールハウスで殺害されてしまう。不可解なことに、現場にはなぜか巨大な招き猫が置かれていた。このビニールハウスでは10年前にも殺人事件があり、現在も未解決であるという。さらに豊蔵の葬儀に参列した何でも屋・岩村もトイレで殺されてしまい、その遺体には味噌汁がかけられていた。この複雑怪奇な事件の真相やいかに……。

 

本作の評価すべき部分は全編を通して丁寧に猫のモチーフを繰り返し登場させているところだろう。すべての事件には「猫」というものが絡んでくる。そのため猫および招き猫について知見が深い方は事件の真相をすぐに見破ってしまうかもしれないが、そうでない人にとっては猫の知識を深めるチャンスにもなる。

トリックについても大胆不敵なものであり、謎が解けたときには「そんなことだったのか……」と奇妙な脱力感に襲われることは請け合いである。ヒントは作中にたくさんちりばめられているので、推理しながら読み進めてみるのもいいだろう。

 

東川氏の得意とするユーモアミステリの魅力も存分に発揮されていて、殺人事件が起きているのに作中で何度も笑えてしまう。ぜひとも従来の堅苦しいミステリーが苦手という方にも手に取っていただきたい1冊だ。また、『謎解き~』『烏賊川市シリーズ』の他にも面白い作品は多々あるので、こちらが気に入った方はぜひとも他の作品も読んでみていただきたい。

特に大野智主演でドラマ化された『もう誘拐なんてしない』はどのシリーズにも属さないのでスルーされがちだが、著者の作品の中でも上位に入る面白さだと思うので併せて紹介しておこう。


 

さて、一方の文野環氏はといえば、猫ゆえの奔放さが行き過ぎた結果、Vtuberのぽんぽこ氏とピーナッツくん氏が主催した「ぽんぽこ24 vol.4」内にて裁判が行われ、2000件もの訴訟が届くことになってしまった。(下記動画6:00:18~)


【24時間生放送】第3部 #ぽんぽこ24 vol.4 あつまれパーリナイッ!!

厳正なる裁判の結果、有罪判決が下されてしまった環氏。残念ながら完全犯罪達成とはならなかったようである。判決以降はTwitterこそ動いているものの、Youtubeでの配信はない。有罪となった彼女がこれからどういった活動をしていくのか、文野環死刑囚の今後の動向に注目していきたい。 

 

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