MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

竜胆尊 かわいい鬼はどこから? 『奇譚蒐集録 ~弔い少女の鎮魂歌~ 著 清水朔』

節分の季節だ。

節分と言えば豆撒きである。幼いころに、鬼に扮した大人に向かって豆を投げて撃退した、という方も多かろうと思う。しかしなぜ豆を投げると鬼を撃退できるのか、ご存じだろうか?

 

マメ。それは「魔目」「魔滅」と表せる。「魔の目」にぶつけて「魔を滅する」ということだ(ほかにも諸説あるが)。魔目に豆を、魔滅。Creepy Nutsも顔負けの語呂合わせ、ライミングだろう。これにはR-指定も鳩が豆鉄砲を食らったような顔に……失礼。

ちなみにクリー「ピーナッツ」つながりで言うと、落花生を煎り豆の代わりに投げる方も多いと思うが、こちらは厳密には豆ではない。でも、ジーマーミ豆腐の原材料だし、今更文句を言う人もいないだろう。

 

さて、節分において滅されてしまう「魔」のモチーフはたいてい鬼である。そして、鬼のバーチャルYouTuberもたくさん存在する。

その中で今回紹介させていただくのは、にじさんじ所属、竜胆尊氏だ。

 

見た目だけで言えば幼女であるが、現在9900歳、鬼の女王である。

彼女は他の鬼キャラクター比べて、鬼らしい部分が多くみられる。なんたって、好きなものが酒と女体なのだ。また、モノマネがうまかったり、自らを男児の姿に変えたりと、変化の術を使える辺りも鬼らしい。


【公式番組】にじさんじMIX UP!! アフタートーク【#7】

こちらの配信では、鬼としての本領を発揮している。酒池肉林という言葉がこれほどまでに似合う配信があるだろうか。酒を飲む。共演者の乳を揉む。王様ゲームではまさに鬼神の如き傍若無人っぷりを見せてくれた(鈴鹿詩子という別次元の魔物も存在するが)。

 

しかし、古くから「鬼」といえば恐ろしいイメージで描かれることが多かった。尊氏のように、かわいらしい鬼の意匠が登場したのはいつなのだろうか。

 

それはやはり、高橋留美子著『うる星やつら』に登場するラムちゃんからであろう。

ラムちゃんといえば、虎柄のビキニで「ぐらまあ」な美女である。若い世代にはもしかしたらなじみが薄いかもしれないが、『ラムのラブソング』等で存在を知っている方も大勢いらっしゃるだろう。

 

うる星やつら』は1978年に連載を開始するのだが、それまでに登場していた鬼といえば、『ゲゲゲの鬼太郎』や『妖怪人間ベム』に登場する恐ろしいものがほとんどであった。作中でコミカルな言動や行動をするため、愛嬌があると言えばあるけれども、単体のビジュアルを見てもあまり可愛いとは思えない。

 

そんな中で、どのようにしてラムちゃんが生まれたのか。著者の高橋留美子氏は『ダ・ヴィンチ 2013年 12月号』において京極夏彦氏と対談しており、「幼いころにアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』が放映されており、妖怪が流行っていて、作中に意識せずとも妖怪を登場させてしまう」と述べている。これが後の『犬夜叉』にも影響しているとも。

もちろん他にも影響を受けた作品はたくさんあるだろうけれども、ラムちゃんが鬼をモチーフに描かれているのは、間違いなく水木しげる氏の影響であろう。

そして、もっとも驚いたのが、「水木しげる氏のマネにならないようスキマを見つけて描いた」という点だ。なんと、『うる星やつら』のラムちゃんは妖怪を登場させるにあたって、水木氏と別のアプローチをしなければならなかったがために生まれた存在なのである。しかし、まさかこのようなアプローチで鬼を登場させるとは。高橋留美子、おそるべしだ。

 

森見登美彦著『夜は短し歩けよ乙女』にはすべての文学作品は連鎖している(コナン・ドイル著『失われた世界』はジュール・ヴェルヌに影響を受けたもので、ヴェルヌ著『アドリア海の復讐』はアレクサンドル・デュマの影響で……以下略)という記述があるが、今回のそれは正にそういった連鎖によるものだろう。

高橋留美子氏は水木しげる氏に影響を受け『うる星やつら』を描き、その『うる星やつら』は現代の擬人化した萌えキャラクターに大きな影響を及ぼしている。そして水木氏も、日本古来より語り継がれてきた、妖怪という存在に影響を受けている。

 

竜胆尊氏が生まれたのも、その縁の連鎖によるものだと思うと、なんだか感慨深くはないだろうか。ひとつのコンテンツ、一人のVtuberといえども、その背景には膨大な人類の文化の積み重ねがある。そして、竜胆尊氏に影響を受けた誰かが、また何か新しいものにつなげていく。我々は常に人類史のどこかに関わっているのである。

 

なお、高橋留美子氏と対談した京極夏彦氏は、水木しげる氏の漫画に影響を受けているほか、高橋留美子氏の漫画にも影響を受けていると語っている。やはりすべての創作物は連鎖しているのだ。

ついでに連鎖さていただくと、鬼といえば、京極夏彦氏は『今昔百鬼拾遺 鬼』を発表されている。京極作品にしてはかなり短いものなので、京極氏の作品は未読だ、という方はまずこちらから入ってみるのはいかがだろうか。

bookclub.kodansha.co.jp

 

 

さて、 鬼が登場する本は無数にあるけれども、今回は中でも珍しい鬼が出てくる本を紹介しよう。

清水朔著『奇譚蒐集録 ~弔い少女の鎮魂歌~』だ。

www.shinchosha.co.jp

舞台は、冒頭で紹介したジーマーミ豆腐発祥の地、琉球である。

大正時代の琉球にある孤島「恵島」で物語は繰り広げられる。なかなかこの時代の琉球を描いた作品は少なかろうと思われるので、その情報だけでも興味を持たれたという方はぜひともご一読いただきたい。作中の漢字も、琉球の人々が話すときには魂(マブイ)、御願(ウグヮン)など、沖縄方言でルビが振られており、このあたりもなかなか読んでいて楽しい。

 

作中に登場する鬼は、『青の化け物(オールーヌマムジン)』と呼ばれる。きちんとした葬儀儀礼をしなかった場合に、死者が蘇えってそれになる、とされている。葬儀を担当するのは「御骨子(ミクチヌグヮ)」と呼ばれる少女たちであり、彼女らは成長するにつれて青い痣が広がっていき、十八歳になると姿を消してしまう。

帝大の講師・南辺田廣章と書生・山内美汐は、さる要件のため恵島へ向かい、唯一痣を持たない御骨子、アザカに出会う――。というのが、本作のあらすじである。

 

民俗学をテーマにしているということもあり、恩田陸氏や小野不由美氏の作品の趣もある。ミステリーともホラーともつかぬ独特な雰囲気のある作品で、日本ファンタジーノベル最終候補作と、様々なジャンルがスーパーもりもりに入っているので、各方面のファンの方にお薦めしたい一冊だ。

 

 

最後に、竜胆尊氏は、ジョー・力一氏、鷹宮リオン氏と「RRR」というユニットを組んでおり、ライブツアー「にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!」では、Zepp Nagoyaで揃って出演する。いったいどのようなステージを見せてくれるのか、楽しみに当日を待とう。

もしかしたら、成功するかどうか、心配されている方もいるのではないだろうか。でもね、そんな未来のことを心配すると、「鬼が笑う」らしいですよ。で、最後には「鬼の目にも涙」……。おあとがよろしいようで。

www.youtube.com

ちなみに、来年は節分が2月2日なんですよ。知ってました? 詳しい説明は省きますが、来年以降数十年にわたって、うるう年の翌年の節分は一日前倒しになるんですよ。これがホントの豆知識、なんつって。……失礼。

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