MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

でびでび・でびる でびの奇妙な映画論 『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 著 荒木飛呂彦』

生来、本当に映画というものを見ない。

映画館には一年に一回行くかどうかで、Amazon Primeにも加入しているが、アニメを見ることと音楽を聴くことにしか利用していない。

 

なぜ私が映画を見ないのかというと、単純に「何を観たらいいのか」というのがよくわからないのだ。 

ワイド・バラエティなんかで新作映画の紹介をしてくれたりするものの、そもそもそういった番組を視聴することが稀である。目にする機会があったときでも、どことなく「面白そうだと思え!」的な押し付け感を感じてしまい、あまり紹介される映画に好印象を持つことができない。

 

しかし、そんな人間にも、「この映画なら面白そうだな」と思わせてくれるバーチャルYouTuberがいる。

その名はでびでび・でびる。にじさんじ所属、恐ろしい悪魔のバーチャルライバーだ。

 

でびる氏は見た目がコアラ恐ろしい悪魔であり、酒に著しく弱いことや家事が著しくできないことから、どうにもポンコツっぽいイメージが先行してしまうことが多いと思われがちだが、でびる氏の真の魅力は雑談配信、特に「映画トーク」から強く感じられる。

 

でびる氏は毎月の上旬に、当月に上映される映画を紹介する配信を行っている。


単館名作めいっぱい! 映画予定表3月【にじさんじ/でびでび・でびる】

 

こちらでは当月に上映される映画を全て紹介しているというわけではなく、でびる氏が気になった作品をピックアップして、そのあらすじを、時に過去に観た映画の情報を交えながら紹介してくれている。

 

前述の通りもともと映画を見ない人間なので、ワイド・バラエティや映画情報誌では、やはり一方通行的に映画の良い部分のみを押し付けられているような感じがあって、どうにも作品の魅力というものがあまり良い印象がないのだが、でびる氏のように配信で紹介してくれるのはありがたい。

でびる氏自身が興味を持つものを薦めてくれるので、より弁に力が入っており、「本当に面白そうだな」と感じることができる。また、コメントの質問などを拾ってくれるので、映画初心者にとってもありがたい配信となっている。

 

映画についてまったく見識がないけれども、何か映画を観てみたいと思った方は、ひとまずでびる氏の配信を見てみるといいのではないだろうか。きっとあなたの興味を惹く映画を紹介してくれているはずだ。

 

 

さて、でびる氏は特にホラー映画、特にB級ホラーが好きであると配信内で度々言っており、紹介する映画の多くはホラー要素を含んだものであることが多い。

ただ、ホラーというだけで鑑賞を敬遠してしまっている方も多いのではなかろうか。いきなりスプラッター系を見てしまって、「グロいのはダメだから」という理由でその他のホラーまでも敬遠している人もいるかと思う。

 

しかし、ホラー映画とは一口に言っても、サスペンスホラー、パニックホラー、和ホラーなどにジャンルは細分化されている。スプラッター系が苦手な方でも、ほかのホラー作品の中には楽しめるものがきっとあるはずなのだ。

 

そんなホラー初心者入門にうってつけの一冊を今回は紹介したい。

荒木飛呂彦著『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』である。

著者の荒木氏は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで有名であり、名前を聞いたことがある方も多くおられると思う。

ジョジョ』と聞くと、やはりスタンド能力を使った異能力バトルを思い浮かべる人が多いと思うのだが、1部の序盤はかなりホラーテイストな内容になっているのはご存じだろうか? 特に第一話の冒頭や、ディオが石仮面を手にするシーンなどはホラー映画の影響を強く受けている。

というのも、荒木氏は部類の映画好き、それもホラー映画オタクなのである。70年代から現代までそのホラー映画の知識は幅広く、『ジョジョ』本編や外伝の『岸部露伴』シリーズなどにもその影響が垣間見える。

 

前置きはこの辺にして、本書を薦めたい理由をいくつか挙げよう。

まず、本書の冒頭で荒木氏は「ホラー映画に対する人間のスタンス」を、大きく以下の4つに分類している。

 

①暗くて汚い、気持ちの悪い、そして気が滅入る映画だと、頭から見ない人。

②怖いもの見たさでお化け屋敷に入るのと同じ感覚で、好奇心で見る人。

③ホラー映画を分類し、作品や監督について詳しいばかりか、カメラワークや演出まで分析、解説して楽しむ人。

④血や殺戮といった残酷なものを純粋に好み、淫する人。

 

荒木氏の主張を要約すると、「この中で、④は極端で危なすぎるが、①もまた同じく極端すぎる。「よくない映画だから見ない」という気持ちばかり先立って、的外れな批判さえしかねない。ホラー映画を知ることで、現実の恐怖を相対化できるので、①のような人にもぜひホラー映画を知ってほしい。ホラー映画とは幅や奥行きがあり、一概に否定はできないものだ」とのこと。

そして本書は、おそらく①の人向けに書かれている。そのため、「ホラー映画の原点とは?」「ホラー映画はどのようにして進化していったのか?」といった解説が丁寧になされていて、①ではない人にもうれしい内容になっている。

 

次に、各項目ごとにホラー映画が細かく分類されていて、その中で映画を紹介していくという点がありがたい。各項目内で最も気になった映画を一度視聴してみて、「合うな」と感じたら同じ分類のホラーを辿っていけばいいし、「合わないな」と思ったらまた別の項目で気になるホラーを探すことができる。

分類は、「ゾンビ映画」「田舎に行ったら襲われた系ホラー」「ビザール殺人鬼映画」「スティーブン・キング・オブ・ホラー」「SFホラー」「アニマルホラー」「構築系ホラー」「不条理ホラー」「悪魔、怨霊ホラー」「ホラー・オン・ボーダー」の10種類。これだけ細かければほとんど迷いなく自分の好きなジャンルを探すことができよう。

 

さらに優れている点は、古典でも手放しで絶賛せず、しっかりと分析して、「こういった点は現代から見ると残念」など、客観的な評価がされている点であろう。

古典的ホラー映画を初心者がいきなり見ても、「なんだかつまらないな」と思ってしまうことも多いと思う。しかし、本書を読んでから見ると、「なぜその作品が当時は絶賛されたのか」、また「なぜ現代の自分が観るとつまらなく感じるのか」をわかったうえで視聴することができる。これが本書の大きな魅力の一つである。

 

上記の理由から、『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』は、『ジョジョ』好きのあなたにも、ホラー映画が嫌いなあなたにも、ホラー映画に興味があるあなたにも、ぜひ手にとってただきたい一冊となっている。特にでびる氏の配信からホラーに興味を持った初心者の方にはおすすめである。

 

 

最後になるが、でびる氏はMurderous Pursuitsというゲームでコラボ配信をした際、ギルザレンⅢ世氏の放った「死霊の盆踊り」という発言に反応するなど、いろいろな配信でその映画好きの一面を垣間見ることができる。ほかにも映画の同時視聴配信などを行っているので、そちらででびる氏と一緒に映画を楽しむのもいいだろう。

また、映画に限らず百合小説やBLなど、興味があるものに対する知識欲が非常に旺盛であり、そこで得た知識を配信やnote、それこそ『でびっち追悼配信』などで我々に見せてくれている。日々の暮らしの中でのことも、常にエンターテイメントに繋げようとしてくれるでびる氏の姿勢には、まったく頭の下がる思いである。

きっとこれから先も、でびる氏は映画等で得た知識や技法をもって、我々に上質なエンターテイメントを届けてくれるに違いない。

 

でも、そのエンターテイメントを黙って受け取ってばっかりじゃあ申し訳がない。我々もでびる氏に何かしなくっちゃあな……。かっこ悪くてあの世に行けねーぜ……。

 

DEBIー! オレの最期のスパチャだぜ! 受け取ってくれーーッ!

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