MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

あっくん大魔王 吾輩は童貞である。経験はまだ無い。『三四郎 著 夏目漱石』

童貞。

飲み会の席に行けばイジりたおされ、「え~、なんでシないの?w」なんて言葉を女子にぶつけられたりして。それでいて、へへ……と笑うことしかできない。そこでガツンと言い返せないあたりが童貞らしさを加速させているような気もする。う~ん、悲しみを背負っているな、童貞。

 

童貞と言えば、以前にじさんじ所属アンジュ・カトリーナ氏と童貞についての記事を書いたが、この記事を書いたのちに、『三四郎』を紹介していなかったなあ、ということに思い至った。

『それから』『門』と合わせて漱石前期三部作である本書だが、名前しか知らない、あるいはお笑いコンビの方しか知らないという方も中にはおられるだろう。あらすじを軽く説明する。

主人公三四郎は上京したての田舎学生で、入学した大学で目にした美穪子に一目ぼれをする。その後三四郎はなんやかんやで美穪子と知り合いになり、いい雰囲気になることが多々あるのだが、いざというところで勇気を出せず、結局美穪子はまったく別の男と結婚してしまうのであった。もちろん、三四郎は童貞である。

 

こちらをアンジュ氏の記事で紹介しなかったのは、単に失念していたからというだけではない。厳密に言うとアンジュ氏は童貞ではなく、もっと真正の童貞っぽい人でなければ、この作品を紹介するのはちょっと違うかな、と思ったからである。

でも、そんな真正の童貞っぽいVtuberなんて、そうそう探しても見つかるものでは……いや、一人いるではないか、あの童貞王が。

 

その名はあっくん大魔王。

 

その名の通り魔王であり、一人称は「吾輩」、視聴者のことは下等生物と呼ぶ。しかしてその実態はどうか。FPSなどではことあるごとにヘタレな一面をのぞかせ、女性と会う際には毎回ド緊張するというピュア童貞なのだ。そう聞くと、なんだか彼の声や喋り方は確かに童貞のそれっぽいし、「あっくん」という名前もなんだか童貞っぽいようにも思えてくる(失礼)。

 

そんなあっくん大魔王、Vtuber童貞王選手権なるものに出場し、その童貞としての特性をいかんなく発揮して優勝をかっさらっていった。

こちらの本編での、朝ノ瑠璃氏との声劇を見ていただければ、彼がバキバキのピュア童貞であることが簡単に理解できよう(42:48~)。

 

瑠「あっくん……。食べたいのって、本当にパスタ……?」

あ「いや、パスタ……(困惑)」

瑠「そ、そうだよね~、そっか……」

あ「なんで?(困惑)」

 

この最後の一幕はとりわけ童貞感があふれている。なぜ誘わない、誘えないのか、誘いたくないのか、誘う度胸もないのか! これはもうあっくん大魔王、リードしてくれる瑠璃氏に対してもっとここはグイグイいかなくてはなりません!

心の中の椎野アナが出てきてしまうほどの童貞っぷりである。しかし彼を責めてはいけない。これについては後述させていただく。

 

このような場面は『三四郎』にも登場する。冒頭、三四郎は上京の際に鉄道で乗り合わせた女性とひょんなことから同じ宿に泊まることになるのだ。

そこで三四郎の入浴中、「背中流しましょうか」と女性が入ってこようとする。それに対して三四郎、「いえ、たくさんです」。いや、断るにしてももっと言い方ってもんがあるでしょうよ。

風呂から上がっても三四郎の受難は続く。布団が一組しかないのだという。しかし、いくらゴネても布団は増えない。結局同じ布団で寝なければならなくなるのだが、ここで手を出さないどころか「癇性なもんで、人の布団で寝るのはちょっと」とか言い出し、布団に仕切りを作りだす三四郎。ここまで来ると逆にデリカシーがないとまで言える。

最終的に、女性との別れ際には「よっぽど度胸のないかたですね」と言われてしまう始末。違うんだ、三四郎はただピュア童貞だっただけなんだ……。

 

そう、童貞は時に「度胸がない」と言われてしまう。しかしそれは断じて否、否なのだ。

童貞は度胸がないのではなく、知識がない。

女性と二人連れになったとき、どんな話をすればいいのか、どんな行動をとればいいのか、その最善を知らないのだ。前述のあっくん大魔王氏の声劇もまさにそれである。

 

将棋にしろ囲碁にしろ、この場面ではこの手が最善というものが決まっていることが多い。そこからまったくはずれた手を指してしまうと、一気に形勢が悪くなるということもあるのだ。恋愛の最善手は時として変わるものだが、定石というものは少なからず存在する。それを知らないのだから、頓死もやむなしなのだ。

思えば、将棋と恋愛は似ている。将棋は序盤に駒をどう動かすのが最善か、ということはあまり重要視されず、その時の流行によってフレキシブルな戦略が練られる。しかし、そこが最も重要かといえばそうではない。終盤、もうすぐ詰みそうだというところで間違いが許されないのだ。どれだけ優勢でも、たった一手で負けてしまう。なんと、恋愛と同じではないか。

ただ、恋愛も将棋も、定石すらできていないようでは絶対に成功することはない。いきなり王将で敵陣に突っ込んだら負けだし、初心者にありがちな、角をタダで取られちゃうみたいなことになればもう敗戦濃厚だ。

 

そういった最善手はおろか序盤の定石を知らない童貞は、時に間違った方向に進んでしまったり、あるいは三四郎のように、もう取り返しのつかないことになってしまったりするわけである。

 

私も、当初『三四郎』を読んだ際、「なんでそこでもっとグイグイいかないんだ!」と言いたくなる場面が多々あったし、それは冒頭の女性のセリフのおかげもあり、三四郎に「度胸がないから」だと最近までは思っていた。

しかし、あっくん大魔王氏の声劇を見てからというもの、三四郎は女性との関わりがないために、女性に対して無知であったために、ただ困惑するしかなかったのではないかと考えるようになった。このように新たな知見を授けてくれたピュア童貞あっくん大魔王氏には感謝をさせていただきたく思う。

 

 

他にも『三四郎』では三四郎がヒロイン美穪子に対して童貞丸出しの反応を見せたり、童貞特有の煩悶をしたりしているので、童貞王でのあっくん大魔王氏と朝ノ瑠璃氏の声劇に魅力を感じる方は楽しめる一冊となっているはずだ。青空文庫で無料公開されているので、ぜひともご一読いただければと思う。

 

 

最後になるが、あっくん大魔王氏は舞元力一第29回において、Vtuber童貞王の前身となった企画「童帝王」内でものすごい童貞力を見せつけてくれた。


深夜ラジオ「舞元力一」 #29

こちらではほかにもリスナーから送られてきた数々の童貞エピソードが楽しめるので、併せておすすめしておこう。また、同企画内以外でもあっくん大魔王氏の童貞たる部分が数々見受けられるので、そちらにも注目していただきたい。

 

さて、今一度彼の紹介をさせてもらおう。

あっくんは童貞である。経験はまだない。どこでヤれたのかとんと見当がつかぬ……。


//上に戻るボタン