MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

ユメノグラフィア ようこそバーチャルの世界へ『クラインの壺 著 岡嶋二人』

VR(バーチャル・リアリティ)技術の発展というものは著しく、VR機器を使って仮想現実世界に没入するということが可能になってきている。

特にその技術はゲーム方面に使われており、野球ゲームであれば選手の視点で球場を見渡したり、ホラーゲームでは主観視点で探索したりといったことができる。ほかにもVRを利用したドラマや映画も作られており、今後の発展が楽しみな業界の一つである。

 

そんなVRを利用したサービスの中に、「ユメノグラフィア」というものがある。

ユメノグラフィア


【公式PV】ユメノグラフィア

これはいちから株式会社が提供するサービスの一つで、VR空間でバーチャルアバターのキャストと1対1で話すことができるという内容になっている。現実世界でいうところのコンセプト喫茶のようなものであるらしい。

さまざまなバーチャルYoutuberやその他ユーザーによる体験レポートや体験動画が挙げられているので、詳しくはそちらを見ていただければと思う。


ユメノグラフィアで新体験を味わってきたけどめっちゃ可愛かった。


VR喫茶「ユメノグラフィア」体験会が最高の空間だった


【ユメノグラフィア】Q.魔法のような新体験とは【にじさんじ】

 

私はこのサービスを知った当初、「また新しいVRのサービスができたのか」くらいにしか考えていなかったのだが、上記の舞元氏の配信を見てこのサービスの特異性、そして魅力というものを思い知った。

ユメノグラフィアは、他のVRのサービスが主に「一方通行のサービス」であることが多い中で、ユメノグラフィアは「双方向性のサービス」であるという特異性を持っているのだ。

 

舞元氏の体験動画を見れば(見るに堪えない部分もあるが)、VR世界とはまるで思えないほど円滑にサービスが進められているのが分かる。VR空間の物体をつかむことができるのはもちろん、キャストはこちらの話に合わせて、プログラムされたものではない返答を返してくれる。しかもこちらの動きが完全に視認されていて、どこを見ているか、どんな手の動きをしているかということまで把握される。これは今までのVRサービスとは一線を画すものになっていると言っていいだろう。

 

既存のものは前述の通り仮想現実に自分が「入るだけ」のサービスが多い。ゲームの世界に入ってそれをプレイをする、映画やドラマの世界に入ってそれを見る。しかし我々はその提供されているもののプログラミング以上のものはできないのだ。例えば、主観視点のホラーゲームで窓を割ろうとしても、「窓はプレイヤーに叩かれたら割れる」というプログラミングがされていなければ不可能だし、ドラマや映画だって自分が登場人物に干渉してストーリーを変えるようなことはできない。VR世界で仮想アバターと1対1の対話ができるゲーム、『VRカノジョ』も完成度が高いものではあるが、プログラムされたもの以上の会話や接触は望めないというのが現状である。

対して、ユメノグラフィアは自分の意思が「干渉できる」サービスになっている。サービス内において自分の発言に返事をしてくれるのはプログラミングされていない人間であり、ゆえに自分の意思決定によってさまざまな展開に持っていくことができるのだ。

自分の声、動き、視線、それに人間のように細かく反応できるAIが開発されるまでは、プレイヤーの意思が干渉できる自由度、それに伴う没入度という点においてはこのユメノグラフィアというサービスが最も優れていると言えるのではないだろうか。

 

 

さて、私は舞元氏の動画を見て、VR世界での自由度と没入がここまで来たか、と感動したのだが、同時にある作品の存在が私の頭をかすめた。

岡嶋二人著、『クラインの壺』である。

岡嶋二人はコンビの作家だったのだが、そのコンビとしては最後の作品となる本書。岡嶋二人の集大成であるとともに、最高傑作であるとも言える。

 

あらすじを軽く説明しよう。

上杉彰彦はとあるゲームブックの原作公募に原稿を送ったものの、規定の4倍もの文量の作品であったため内容は面白いと評価されたが落とされてしまう。その原稿に目をつけたのはイプシロン・プロジェクトという謎のゲーム会社。200万円という金額で上杉から原稿を買い取ると、「クライン2」というVRゲームのストーリーとして採用するという。「クライン2」は人ひとりがすっぽり入ることのできるタンクのような形状をしており、その中にプレイヤーが入ることで仮想現実に入り込むことができるという魔法のようなゲーム機であった。そしてそのテストプレイヤーの一人として、上杉は「クライン2」に入り込むのだった。

 

特筆すべきは、この作品が1989年に書かれたものであるという点だ。当時はパソコンの普及もロクに進んでいなかった時代である。その時代に仮想現実を描いた前衛的な本作であるが、いまだに「クライン2」のような装置が開発できていない(将来的な開発は進んでいるだろうが)ことを考えても衝撃的であると言わざるを得ない。

著者である岡嶋二人のうちの一人、井上夢人氏がパソコンオタクであり、パソコンに限らず最先端のテクノロジーというものに造詣が深かったということを鑑みても驚くべき発想力である。井上氏がもしユメノグラフィアを体験したら、いったいどのような反応をされるのかも気になるものだ。そしてそのうえで新作を書いてくれるのであれば、ファンとしてはワクワクが止まらない。

 

その前衛的な設定もさることながら、ストーリーの完成度も非常に高い『クラインの壺』。きっとこの作品を読み終えた暁には、VR世界の魅力と恐ろしさに憑りつかれることになるだろう。

 

 

最後になるが、ユメノグラフィアにはVR機器がない方でも楽しめるデスクトップモードが存在する。新型ウィルスの流行で人に会うことが難しい今、このようなサービスを利用するのも一つの手ではないだろうか。チケットはVR、デスクトップ共に30分で3300円となっている。

また、キャストの方々の中にはそれぞれ自身のYoutubeチャンネルで配信を行っている方も多くおられるので、気になったらまずはそちらをチェックしてみるのもいいだろう。

 

いつか我々も「クライン2」のような装置が発明されることによって、「ユメノグラフィア」世界に全身で入りこむことができるようになる時代が来るかもしれない。

きっとそれは今まで以上の、魔法のような新体験になるに違いない。

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