MORYO通信 ~Urbs Communication~

本を読んで勝手にいろいろ言います

卯月コウ 13歳は、永遠だ。&Kimotional『4TEEN 著 石田衣良』『蹴りたい背中 著 綿矢りさ』

 

人生で一番楽しかったのって、いつだろう。

たぶん、それは中学生時代だ。小学校と比べて学区が広がり、知らなかった地域の友達ができて、知らない街に遊びに行けるようになった。

でも、それくらいなんだよな。高校生時代に比べると、行けるところも少なければ遊べる時間も短い。自由に使えるお金だって、月に1万円も貰えていたらセレブリティだ。

 

なのに、なんで中学時代って、あんなに楽しかったんだろう。

テスト期間が終わった日。平日なのに午前中に帰れるから、いったん帰って昼飯を食って、同じ部活とかクラスのヤツらとカラオケに行って。フリータイムで。アニソンとか、ロキノン系とか、当時流行ってたボカロとか歌って。でも、フリータイムなのに中学生って6時までしかいられないんだよな。あと10分しかない! 何歌う? ラストはいつもRADの『ララバイ』だった。

「次会えた時、今日の話を笑ってしよう」って。次、会えたんだよな。あの時の俺たち。今、何してんだろうな、アイツら。もう街中でお互いに顔を合わせても、気付かないんだろうな。そう思って、少しだけ泣きそうになる。

 

なんで、普段から思い出せないんだろう。思い出したら、こんなにノスタルジックな気持ちに浸れるのに。きっと目の前のことで頭がいっぱいなんだ。だから、思い出の方から、「俺は今出る幕じゃないな」って引っ込んでしまうんだ。凹むよな。そんなに余裕ないのかな、俺って。

 

なんて、長い長い自分語りをしてしまった。

でも、中学生時代って楽しかったんだよ。これくらいの熱量で思い出を語れるくらい、毎日が充実してて、めちゃくちゃ楽しかったんだ。

 

さて、世の中には数多くののバーチャルYouTuberがいるわけだけれども、配信を見るだけで、こんな風に、「エモ」の感情を突き動かしてくれるのは、言わずもがな卯月コウしかいない。

御曹司で、13歳の中学生。そんな彼はキモい、エモい、この2つの言葉で成り立っている。

納豆ASMRをしたり、同業者のASMRを聞いて赤ちゃんになったり、彼のキモさはとどまるところを知らない。しかし、それを補えるほど、彼はエモい。そして、その絶妙なキモとエモのバランスが、彼をここまで人気たらしめているのだ。


卯月軍団、エモグランプリ

こちらは、視聴者から送られてきたエモいエピソードを紹介していく放送である。そしてそのエピソードに対して、本心で言っているのか? と疑いたくなるようなエモい言葉を次々と繰り出し、視聴者を「エモ」の世界に引き込んでいった。

 

しかし、そもそも「エモ」、ってなんだ? 三省堂が選ぶ「今年の新語 2016」に選ばれた際には、「接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子だ。」と説明されている。確かにそうだけど、なんだか足りないような感じがする。それは、私はこの言葉を別の感情に使っているからだ。

私にとっての「エモ」は「懐かしさを感じたときに、それとは別に襲ってくる感情」である。前述の通り、私は以前まで、すべてノスタルジックと表現していたが、厳密には違うような、どこか欠乏したような気がしていた。そんな中、「エモ」という言葉を知った時に、とてつもない感動があったのだ。

名状しがたかった感情に名前をつけると、すごくすっきりする。ドイツには「懐かしい」という言葉がないため、それを知ってドイツ人が感動する、というのは有名な話である。

 

そして、私は卯月コウ氏の「エモグランプリ」で、エピソード自体にもエモさは感じたが、それ以上に、エピソードに対して中学生のような考え方でコメントする卯月コウ氏にエモさを感じた。

確かに、中学生のころ、そんな風に物事を考えてたよ、俺。いつからこんな固い大人になっちゃったんだろうな。そんな諦観も、私の「エモ」の中には含まれている。

 

ただ、「エモ」って、いろんな種類があると思うのだ。私だって先ほどのような状況だけでなく「エモ」と思うことは多々ある。卯月コウ氏も、「もののあはれ」に近いニュアンスで使っているらしい。

「エモ」って思ったら、その感情が「エモ」なのだ。たくさんの解釈のしようがあるのが、「エモ」という言葉の良いところでもあると思う。

世界にはたくさんの「エモ」がある。世の中に落ちているたくさんの「エモ」を拾い集めていったら、より世界は輝いて見えるだろう。

 

 

さて、「エモ」を感じられる作品は古今東西たくさんあるけれども、中学生特有の「エモ」を感じさせてくれるのは、石田衣良著『4TEEN』だろう。

14歳は、永遠だ。

そんなキャッチコピーがつけられた本作品は、直木賞を受賞している。

4人のそれぞれ違った境遇、悩みをもつ少年たちが、時には友達のために無茶をして、時には馬鹿なことをやる。ただ、それだけの小説である。

なのに、なんでこんなにエモいんだろう。それはきっと、中学生時代の自分に、彼らを重ね合わせてしまうから。

彼らはいずれ離れ離れになるかもしれない。お互いの顔すら忘れてしまうかもしれない。でも、中学時代、一緒になって馬鹿やったよな、って。ふとした瞬間に彼らはそれを思い出すだろう。そんな未来の話は描かれていないんだけど、そこまで想像してしまう。「エモ」。これが、本作品の大きな魅力の一つだろう。

 

しかし、『4TEEN』の少年たちは、勝手に泊りがけの旅に出てしまうなど、いささかアグレッシブだ。そんな中学時代なんて送ってないだろうオタクたちもうちょっと品行方正に育てられた方も多いだろうし、もしかしたら感情移入できないかもしれない。

そんな方々に薦めたいのが、綿矢りさ著『蹴りたい背中』である。

クラスであまり友達がいなく、斜に構えながら生きている初美は、とあるモデルの熱狂的なオタク、にな川にひょんなことから部屋に誘われる。それ以来、恋愛関係でも友人関係でもない、「クラスメート」という絶妙な関係で過ごす生活を、初美の視点で描いた作品である。

本作は著者が最年少で芥川賞を受賞したこともあり、知名度も高い。同時受賞の金原ひとみ著『蛇にピアス』と合わせて知っている方も多かろうと思う。

 

これは主人公が高校1年生と、『4TEEN』に比べて少しだけ成長している。それゆえ、社会や学校に対して少しだけ大人びた態度をとって見せる。それがなんともむず痒くて、いじらしい。きっと主人公の初美も、いつかこの高校生生活を振り返り、「エモ」に浸るのだろう。

そして、登場人物のにな川がキモオタというところが、どこか卯月コウ氏と重なる。皆さんの中にも、にな川に自分を重ねる方がいるのではないだろうか。キモい、なのにエモい。Kimotional。これを19歳で書いた綿矢氏にはまったく感服させられる。

こちらは比較的短い、中編小説程度の長さなので、普段小説を読まないという方にも手に取っていただきたい一冊だ。

 

 

最後になるが、卯月コウ氏がオリジナル曲『アイシー』を発表していたことはご存じだろうか? 現在は非公開になっているのだが、私はそれ以前に視聴し、あまりのエモさに危うく好きになるところだった。

楽曲提供をしたぼっちぼろまる氏がセルフカバーをアップされているので、未視聴だという方はそちらをご覧いただければと思う。


アイシー/ぼっちぼろまる(self cover)

 

届かないとわかって、あの月に伸ばした手。

思春期の中学生が持つキモさとエモさの果てまで。いっぞ、卯月コウ。

 

この記事を書いてた時にやってた配信タイトルが「【視聴者参加型/スマブラSP】とんでもなくえちちな新キャラが参戦したみたいなんだがw【卯月コウ/にじさんじ】」だった。これはKimotionalじゃないね。Kimoだね。でも、これが「卯月コウ」なんだよな。

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